第2章 波乱の初日
ピピピピ.....
「ん...」
時間を知らせる目覚まし時計が鳴る。芋虫のようにくるまったベッドの布団から、気だるそうに1本の腕が伸びた。カチッとうるさい音を止めて数分後、やっと手の主が布団の中から現れた。肩まで伸びた黒髪、世辞にも良いとは言えない目付きと血色...そして無精髭。とても教員には見えないが、彼...抹消ヒーロー イレイザーヘッドこと相澤消太は、雄英高校のプロヒーロー育成学科の教員である。彼は合理主義者で、時間の無駄を何よりも嫌う。 合理性を求め過ぎてしまったせいか以前は食事はゼリー飲料で済まし、寝袋を持ち歩いて時間の隙を見つければ即入り込むなど怠惰な人物の印象があった。しかし、“彼女”と出会ってからというもの習慣は改善されつつあり、規則正しい生活を送るようになっていた。その証拠に.......
トントントン...
1階から聞こえてくる食材を切る音と、母が作るような優しい匂い。ようやく起き上がると、「ふぁ...」と小さなあくびをしながら階段を降りる。
リビングの扉を開けた瞬間、ふわりと味噌汁の匂いが広がっていた。キッチンに立っているのはまだ年端も行かない少女。桜色の髪をふわりとひとつに結び、まだ真新しい制服の上からエプロンを付けて朝食の支度をしていた。テーブルの上にはお弁当箱が2つ並んでいる。
「あ、消ちゃん!おはようっ」
振り返った少女は、誰が見ても美少女だった。白雪姫のような白くきめ細やかな肌、くりっとした大きな瞳、ぷるんとした小さな唇...そしてメリハリのある抜群のスタイル。スカートから伸びた白く長い足は、世の男共を魅了するのは間違いないが、目のやり場に困るわけで。
「さくら、スカート短ぇぞ...もっと伸ばせ」
消太がイスに腰をかけながらそう言うと、さくらはぷーっと頬を膨らませながら椀に味噌汁をよそう。
「もー...消ちゃん他に言うことないの!?せっかく今まで制服姿見せなかったのに...消ちゃんの好きなかぼちゃ、入れてあげないんだから」
今日から高校生と言えどまだあどけなさが残る彼女がよそった味噌汁を口に含みながら、消太はさくらを見る。