第10章 突っ走れ期末テスト!
その日の夜、学校から帰宅したさくらはキッチンに立って夕食の支度にかかっていた。この日は相澤も早く帰り、今はリビングのテーブルでパソコンと向き合っている。リズミカルに食材を切る音が響く。しかし、さくらの表情はずっと上の空。調理に集中出来ず、ぼーっとしている。それが仇となり…
「痛っ…!?」
包丁で指を切ってしまい、その反動で持っていた包丁が床に落ちる。左手人差し指からじんわりと血が溢れる。その出来事に、パソコンと向き合っていた相澤も気づき、彼女の元へ歩み寄った。
「どうした、切ったのか…」
「うん、ちょっとぼーっとしちゃってて…」
「しょうがねえな…見せてみろ」
そう言うと相澤はさくらの左手を取ると、ゆっくりと自分の口に近づけた。
「あ…」
傷口から溢れるそれを優しく舐める。
「傷口は浅い。絆創膏貼っとけ」
そう言うと、救急箱から絆創膏を取り出してさくらの指に貼った。
「………」
「…なにかあったか?」
そう、静かに問われたがさくらの口はすぐには開かなかった。昔からそうだ。何かあっても絶対自分からは話さない。こうして声をかけないと、何があったのか話さない。
「…消ちゃん…私って、疫病神なのかな」
「なんで、そう思う。誰かにそう言われたのか?まあ、大体予想はつくが…」
「物間さん…B組の」
その名前を聞いて、「やっぱりか」と声がもれた。露骨に嫌味な発言をしてくるのはあいつくらいしかいない。A組がUSJ事件やステイン事件、体育祭で目立つことが多く、B組の中にはA組をよく思わない生徒がチラホラと出始めている。それは相澤も薄々勘づいていた。
「お前は、自分が疫病神だと思うか?」
「………」
相澤の言葉に、さくらは何も言えなかった。USJ事件、保須事件…自分はどこまでも役立たずで、相澤や緑谷たちに迷惑をかけているのも事実。改めて聞かれると「違う」とは言いきれないのだ。逆に自分は他の誰かに何か貢献出来たのだろうか。思い返せば、ない。ただひたすら誰かの足を引っ張り、誰かに助けられている。
「疫病神ってのは、災いや病を呼ぶやつの事だ。お前のなかで納得いかないこともあるだろうが、これだけは言える」
そう言うと、相澤はしっかりと彼女の目を見た。