第2章 波乱の初日
煙草を咥えたまま、消太はただゆらゆらと妖しく揺れる紫煙を眺めていた。
「.......ずっとガキだと思っていたが...あいつも、“女”になったか」
ふとそう思った。“あの日”からずっと妹のように育ててきたさくら。幼稚園の時から何かと男運はとてつもなく悪い。面倒事にも巻き込まれた。消太自身一番肝を冷やしたのはさくらが中学2年の時。さくらの外見を僻んで当時同じクラスだった女子生徒が、普段から絡んでいた男子高校生にさくらを襲うよう仕向け、レイプさせた事だった。先に助けに行っていた切島から連絡を受け、すぐさま駆けつけたが着いた時には既にさくらは衣服を乱され、体のあちこちを触られた後だった。切島自身も個性を使って立ち向かったが、相手の高校生もそれなりの個性を有していたのと人数もいたためボロボロだった。
ーーー“消ちゃん...助けて...っ...!!!”
彼女が恐怖の中で、震えながら出した言葉を聞いた消太は、一瞬で相手の個性を消して追い返したが、彼女の心にも体にも深い傷跡が残ってしまった。消太自身も保護者として酷く自分を責めたが、自分を責めるより先にさくらのメンタルケアが最優先と見なし、しばらく学校を休ませた。
出かける時は必ず自分か切島と。
そう約束を交したおかげか彼女は外に出ることへの恐怖心が少しずつだが改善されていった。そして、雄英高校に行くと言い出した時は大層驚いたことを覚えている。
「.....あいつも、成長してるってことか」
煙草の灰を灰皿に落とすと、消太はパソコンを開き持ち帰った仕事に取り掛かった。明日の授業のカリキュラム作成を終わらせなければならない。寝ている暇などない。キーボードを軽快に叩いて文字を打ち込んでいく。さくらと切島を自分のクラスにしたのは、彼女を陰ながら学校生活見守るというのもあるが、本命は彼女をヴィランから護るのが目的。彼女の両親が巷では有名なヒーローだったために、その子であるさくらも当然ヴィランからしたら有害人物の一人と見ている。消太自身、ヒーローとして活躍することは昔ほど多くはないが、まだその腕に衰えは感じていない。
さくらが成長していく姿を見て、不安は募るばかり。もし彼女の身に何かあったら、親御さんの墓前に合わす顔がない。