第2章 波乱の初日
深夜1時を過ぎた頃、消太はようやく家路についた。
家のあかりがまだ付いていることを気にしつつ、消太はドアの鍵穴に鍵を通す。しかし、鍵は開いていた。家に入ると廊下の明かりもつけっぱなしだった。消太はそのままリビングに向かう。そこには制服のままソファで寝息をたてるさくらの姿があった。
「...ったく、しょうがねえな...おい、さくら」
「ん...」
声をかけられて身動きはするが、眠りが深いようで起きる様子が全くなかった。それも、かなり無防備。長いまつ毛、白い肌、小さな唇...そして制服のスカートからスラリと伸びた足。家だから当然なのだろうが、警戒心ゼロだった。
「...そんなだからワケの分からねえ男に襲われんだろうが...」
ボソッとそうボヤきながらも消太はさくらを横抱きで抱き上げた。キュッと引き締まったクビレと腰、膨らんだ胸、女性らしい少し肉づいた足。まだまだ子どもだと思っていた彼女がいつの間にか、立派な女性になっていた。
消太はさくらを部屋に運ぶと、そのままベッドに寝かせた。ふわりと布団を被せて、部屋を出ようと歩き始めたその時。
「消ちゃん...」
「...?」
突然名前を呼ばれ、振り返ったがさくらは眠ったままだった。消太は、体の向きを再びさくらの方へ戻す。思えば、彼女は今日は過呼吸を起こしながらも体に鞭打ってテストに臨んでいた。普通の人間ならそこまでしんどくないテストだが、体が弱いさくらには酷だった。しかし、だからといって贔屓目で見るわけにはいかず消太は心を鬼にした。無理をした分疲れが出たのだろう。しかもリカバリーガールの治癒は己の身体の回復を早めるため体力を消耗する。それもあってかなり疲れたのだろう。消太はさくらの頭を起こさないように撫でた。
「今日はよく頑張ったな...ゆっくり休め」
そう声をかけて消太は部屋を出た。
「...さて...」
リビングに戻った消太は、手首にかけてあったヘアゴムを口にくわえた。前髪をかき分け、無造作にまとめて結んだ。ズボンのポケットから煙草を取り出す。アメリカンスピリット...昔から変わらない銘柄だ。消太はジッポを取り出すと親指でキン...とフタをあけて火をつける。イスにもたれ掛かり、ふぅ...と紫煙を吐く。