第9章 戻った日常
私は逃げるように身を離そうとするけれど、私の肩を抱いている消ちゃんの手がそれを許してはくれなかった。
「ん?どうした…?」
「ちが…あの…私は…!」
「ちゃんと言わねえと、ずっとこのままだぞ…?
あぁ…それとも……
ーーーずっとこのままでいたいのか…?」
ガタン…
「もうっ…!」
私は力づくで彼の手から逃れた。ずっと囁かれていた方の耳を両手で抑えてキッと消ちゃんを睨んだ。自分でもわかるくらい、私は今…半泣き状態だ。2人きりになるとこれだ…!付き合ってからというもの、消ちゃんは時々こうやって私をからかってくるようになった。もちろん、私は耳が弱いのをわかっていてだ。いじわるこの上ない。でもそんな彼すら愛おしく感じてしまう私がいるのも事実で。そんな、愛おしそうな目で見られてしまっては怒ろうにも怒れなくなってしまう。そう…その優しい漆黒の瞳に負けるのはいつも私なのだ。
「くくっ…!分かった、悪かったよ。そう睨むな」
「私が耳弱いの知ってるくせに…!!」
「仕方ねぇだろ…毎回毎回そうやって可愛い反応されたら、からかいたくもなる」
「っ…」
もう、この人は本当に…さらっとそういう事を言う…。
「……次からは…見えないところにつけてね」
ぼそりとそう言うと消ちゃんの手が頭に触れた。
ちゅっ
おでこにキスをされたかと思えば、また優しく微笑んで…
「分かった…ただし、もう隠そうとすんなよ?」
「う…うん。」
そう返事をすると消ちゃんは私の頭をわしゃわしゃと撫でたあと、距離をとる。その時の消ちゃんは『1ーA担任 相澤消太』の顔に戻っていた。
「次の授業で配布するカリキュラムがある。手伝え、四楓院…」
「あ…はい!!」
お互い『教師』と『生徒』に切り替え、私たちは職員室に向かったのだった。
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