第9章 戻った日常
「あ、いやその…っ…!?それはノーコメントで…!」
「えーっ」と残念そうな声があがり、そのあと質問を投げかけられることは無かった。さすがにここから先は言えない。言えばある意味大問題となるし、お互いに気まずいことになってしまう。それだけはなんとか避けたい。なんとか言い逃れたさくらは、ほっと胸を撫で下ろすと着替えを再開した。
「(今度から見えないとこに付けてもらわなきゃ…)」
ふと証に触れてながらそう思う。自分自身『夜の営み』は未経験だったのもあって、流れは全て『彼』に任せっきりだ。「お前はなにもしなくていい…おれに身を委ねてりゃいい」と言われてしまってはそれしかできなくなる。
「…っ」
思わずそこから先を思い出してしまったさくらは顔を赤くしながら着替えを終えると、みんなにバレないようにひとり先に更衣室をあとにした。
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(さくらside)
「はぁ〜…まさかバレるなんて…なんとか言い逃れは出来たけど。しばらくはネタにされそうだし、気をつけなきゃ」
ーーー消ちゃんのばか…
まだ誰もいない教室に戻った私は席に座ると、スカートのポケットから小さなポーチを取り出して絆創膏を手に取った。それを証の所に貼ろうとしたその時、その手が誰かにおさえられた。目を向けると、手の犯人は少し機嫌が悪そうな消ちゃんだった。
「何してる…」
「消ちゃんがわかりやすい所に付けたから、クラスの女の子たちに彼氏がいるってバレちゃったのよ。さすがにそれが担任の先生とまでは気づかれなかったけれど…」
「それが理由にはならん」
つまり、自分が付けた証を隠されるのが気に入らない…そういう事だ。
「だ…だって…は、恥ずかしいし……」
自分の声がだんだん小さくなっていく。慣れていない事だから恥ずかしいのは本当の事だし、これを話のネタにされては私の心臓ももたない。そんな私の気も知らないで『彼』は、さらに私に密着する。そしてトドメと言わんばかりに耳元にその唇を添えて。
「…恥ずかしい…か」
「…ーーーっ!!!」
「本当に、それだけか…?」
私の耳元でその低く甘い声音を出して囁く。それは私の最大の弱点である事を知っていての行動だった。顔から耳にかけて一気に熱くなる。
「ちょっと…!!」