第8章 〝仇〟(※裏有)
普段は冷静沈着な焦凍くんが、署長に突っかかるように言葉を発した。それを緑谷くんがなだめる。
「規則守って見殺しにするべきだったって!?結果オーライであれば規則などウヤムヤでいいと?ーー…人を救けるのがヒーローの仕事だろ!」
「ちょっと轟くん…!」
「…だからキミは“卵”だ。まったく…いい教育をしているワンね。雄英も、エンデヴァーも…」
「この犬ーー!」
「やめたまえ!もっともな話だ!!」
「まァ…話は最後まで聞け」
飯田くん、グラントリノがなだめるなか、署長は話を続けた。
「以上が警察としての意見。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン。公表すれば、世論はキミらを褒め称えるだろうが、処罰はまぬがれない。一方で汚い話、公表しない場合ヒーロー殺しの火傷跡からエンデヴァーを功労者として擁立してしまえるワン。幸い目撃者は極めて限られている…この違反は、ここで握りつぶせるんだワン。だが、キミたちの英断と功績も誰にも知られることはない…どっちがいい!?1人の人間としては…前途ある若者の偉大なる過ちにケチをつけたくないんだワン!?」
「まァどの道、監督不行届で俺らは責任取らないとだしな。」
マニュアルさんが半泣きでため息をしながらそうボヤいた。
「「申し訳ございませんでした…」」
私と飯田くんが頭を下げると、マニュアルさんのチョップが頭に炸裂した。…地味に痛い…
「よし!他人に迷惑かかる!分かったら二度とするなよ!!」
そして最後にみんなで署長の寛大な心に感謝して頭を下げた。
「よろしく…お願いします」
「大人のズルでキミたちが受けていたであろう称賛の声はなくなってしまうが、せめて共に平和を守る人間として…ありがとう!」
署長も、こちらに向かって深深と頭を下げた。思わぬ形で始まった路地裏の戦いは、こうして人知れず終わりを迎えた。ただ、その影響もまた人知れず…私たちを蝕んでいた。そして、さらに追い打ちをかけるような話が告げられた。それは、飯田くんが負傷した左手に後遺症が残るということだった。腕神経叢という箇所をやられ、手指の動かしづらさと多少の痺れが残ると診断された。手術で神経移植すれば治る可能性もあるらしいけど、飯田くんは、自分が本当のヒーローになれるまでその左手を残しておくと決断した。
『みんなで一緒に強くなろう』
そう、誓い合った…。