第8章 〝仇〟(※裏有)
「うん、まあね…」
「ヒーロー殺し…現代社会の包囲網でも捕えられぬ神出鬼没ぶり…無駄なことかもしれないが…俺はそれでも追わずにはいられなかったんだ。兄さんは…脊髄損傷で下半身が不随になってしまって、もうヒーロー業が出来ない体になってしまったんだ」
「そんな…!!脊髄損傷って…歩くこともできないじゃない…!」
脊髄損傷…それは、脊椎の脱臼や骨折によって脊髄が圧迫されること。頚椎では、もともと脊柱管が狭くなっている人や頚椎症などで脊髄の圧迫が存在している人が、転倒などによって衝撃が加わることで脊髄損傷がおこることがある。症状は、さっき飯田くんが言っていたように麻痺が現れる。麻痺には完全麻痺と不全麻痺の2種類があって、インゲニウムの場合は、足が動かないのと感覚がないことから完全麻痺。もう二度と自分の力で歩けなくなり、生涯車椅子生活が余儀なくされる深刻な状態だった。お兄さんに憧れてヒーローを志した飯田くんにとって、それは残酷な現実だったに違いない。
「僕は…あいつが許せない…」
飯田くんは唇を噛み締めながら言った。そして、市街パトロールをしながらヒーロー殺しについての情報もだいぶ集まった。奴の名前は、ステイン。本名は赤黒血染。彼が今まで出没した7箇所全てで必ず4人以上のヒーローに危害を加えている。目的があるのかジンクスかは分からないけど、必ず4人以上。しかし、ここ保須市だけはまだインゲニウムしか襲撃されていない。この情報が正しければ、やつは必ずまた現れ、少なくともあと3人のヒーローを襲うはずだ。そうなる前に…また、誰かが悲しみに昏れる前に…必ず見つけて、仇を討つ。
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職場体験 3日目ーー。
「今日も今日とてパトロール!ごめんね、代わり映えなくて」
「いえ…むしろ良いです。」
「……ねえ、聞きにくいんだけどさ、君たち…ヒーロー殺しを追ってるんだろ?」
「それは…」
「ウチに来る理由が他に思い当たらなくてね…や!別に来てくれたことは嬉しいんだぜ!?ただ…私怨で動くのはやめた方がいいよ…」
いつもは穏やかで優しいマニュアルさんが、この時、初めて怖い顔をした。