第8章 〝仇〟(※裏有)
「普段は依頼の電話待ちが多いんだけどね。最近はホラ…保須市も慌ただしいからね」
そう言いながら飯田くんと私と一緒に街を回っているのは、ノーマルヒーロー マニュアル。今回の職場体験のプロ事務所のヒーローだ。
「市街パトロールは、ヴィランの抑制になりますね」
「そゆこと!しかし、インゲニウムの弟さんとUSJ事件でヴィランと勇敢に戦ったキミが、よくウチに来てくれたな」
数歩先を歩くマニュアルさんには聞こえないように、私は小さく飯田くんに耳打ちをした。
「…飯田くん…あなたの本当の目的は、職場体験なんかじゃないんでしょ?」
「何を言ってるんだ…職場体験に決まっているだろう」
「…飯田くんのお兄さん、インゲニウムがヒーロー殺しに襲われたのは、まさにここ…追って捕まえる気なんでしょ…?」
「………」
飯田くんは何も言わなくなった。それは彼の答えを肯定させた。やはり、彼も私と同じ目的だった。いわゆる、仇討ち…やっと見つけた、お父さんとお母さんの仇…私もだいぶ強くなった。飯田くんとなら、勝てるかもしれない。
「…飯田くんには話してなかったけど、実は私…親も親戚もいないの」
「何…親御さんも親族もいない?じゃあ、キミは今どうやって学費や生活費を賄っているんだ?雄英にいては、アルバイトなどできないだろう?」
「今は、ある人と一緒に住んでる。生活費も両親が遺してくれたお金があるし、一緒に住んでる人の稼ぎで何とかやっていけてる…私の両親は、巷では有名な夫婦ヒーローだったの。でも私が5歳の時、両親がヴィランに殺されてしまったの。」
「!」
「今一緒に住んでる人は、昔お父さんのサイドキックをしていた人だから、引き取られる前から良くしてもらってたの。でも…引き取られた最初の頃は、お父さんとお母さんが死んだことが受け入れられなくて、毎日のように泣いてた…当然だよね、まだ5歳だったし…」
「ご両親を殺害した犯人は捕まったのか?」
「ううん、結局手がかりが少なすぎて見つからなかった。唯一の情報は、刃物をいくつか所持していて、目全体に包帯を巻いているっていうことだけ…もう10年くらい前の話だし、今はどうかわからないけど」
「…そうか…それで今回のヒーロー殺しがそいつかもしれないと思って、ここに来たのか」