第8章 〝仇〟(※裏有)
そして、職場体験当日ーーー。
駅にみんなが集まり、ここから各自決まったプロ事務所へ向かう。
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな…『はい』だ、芦戸。くれぐれも失礼のないように…じゃあ行け」
消ちゃんに見送られながら、各自ホームに向かう。私はたまたま飯田くんと同じ事務所だったから、一緒に行くことになった。体育祭後、ニュースで聞いたインゲニウムの事件…逃走中のその犯人…神出鬼没で過去19名ものヒーローを殺害し、23名ものヒーローを再起不能にしたヒーロー殺し…ヴィラン名 ステイン。お父さんとお母さんを殺したヤツが…
ピロン…
バッグにしまってあったiPhoneからLINE通知の音がした。開けて見てみると、送信相手は消ちゃんだった。
『無茶はするなよ』
その一言だけだった。大丈夫…無茶はしないし、誰にも迷惑は掛けない。私も直ぐに返信した。
『大丈夫だよ!行ってきます!』
そう短く打って、私たちは歩き出した。でもその時。
「飯田くん!…本当にどうしようもなくなったら言ってね…友達だろ?」
そう声をかけてきたのは、心配そうな顔をしたデクくんとお茶子ちゃんだった。2人の心配そうな顔を見て、飯田くんは「ああ」と返事をして再び歩き出した。私も、その後について行った。私は、何となく気づいていた。飯田くんは、きっと私と同じ目的でマニュアル事務所を選んだんじゃないかって。じゃなかったら、高みを目指す彼の事だから、もっと上の事務所に行ったはずだし、もっと張り切っている。でも、最近の彼はどうだろうか…体育祭が終わってからというもの元気もないし、今日に至っては背中越しから僅かながらに怒りすら感じ取れた。
私たちは、ある決意を胸に電車に乗って東京保須市へ向かったのだった。
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