第8章 〝仇〟(※裏有)
唇に残る彼の存在が嬉しくて、私はついニヤついてしまう。でも、“続き”とはなんの事なのか、この時の私は全く分からなかった。とりあえず夕飯を作り終えて、私たちはいつもの様に食卓を囲む。カルパッチョはさっぱりして美味しくて、冷製スープもちょっと心配だったけど、上手くいって美味しかった。
***
時間は22時。私は洗い物を済まし、お風呂に入って寝る支度をしていた。未だに止まらないニヤニヤと戦い続けていたその時、部屋のドアが開く音がして不意に視線をそっちに向けた。いたのはお風呂上がりの消ちゃん。下はジャージ、上なんか半裸だ。これも日常茶飯事だけど、いざ“そういう関係”になると、つい意識してしまう。猫背なのは相変わらずだけど、しっかりと鍛えられた体つきをしていて思わず魅入ってしまう。逞しい上腕二頭筋に胸板、割れた腹筋。きちんと拭かれていない黒髪からは水が滴り、頭に無造作にタオルを掛けているだけなのに、その姿そのものがかっこよくて…
「ん?なんだ?」
「あ…ううん、なんか、不思議だなって。まさか消ちゃんが私を1人の女の子としてみてくれてたなんて、これっぽっちも思ってなかったから…だから、なんか、不思議な感じ…」
「…まあ、なんだ…年頃になってくるとそういう目で見ちまう時もある…俺も一応男だからな。」
「鋭児郎が男はみんな狼だから気をつけろって言ってた」
「その典型的な手本が上鳴と峰田だ」
「あ、それは間違いないと思う…こないだヤオモモちゃんの事めちゃくちゃヤラシー目で見てた」
「あの馬鹿ども…」
呆れてため息をつきながら消ちゃんは私が腰掛けているベッドの隣に座った。一瞬教師の目になったけど、それはほんとに一瞬。こっちが気を抜いていたのをいいことに、彼は簡単に私を沼にはめていく。気づけば私はベッドに押し倒されて両手をホールドされていた。視界に映るのは天井じゃなくて、窓から差し込む月明かりに照らされた妖艶な抹消ヒーロー。髪から滴り落ちる水がまた彼の魅力を引き出す。
「さ、続きと行こうか…お姫さん」
そういうと消ちゃんは私のパジャマのボタンを外し始めた。手が皮膚に触れて体が跳ねたけど、彼は手を止めようとしない。手はやがて私の肩甲骨まで伝い、器用にブラジャーのホックを外した。
「や…っ!恥ずかしいよ消ちゃん…!」
「おまえ、鍛えすぎだ。腹筋割れてんじゃねえか」