第2章 波乱の初日
「どういうつもりでも、周りはそうせざるを得なくなるって話だ...昔、暑苦しいヒーローが大災害から1人で1000人以上を救い出すという伝説を作った...同じ蛮勇でも、お前のは1人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久...お前の力じゃヒーローにはなれないよ」
「.....っ」
緑谷くんが唇を噛み締める姿を見て、消ちゃんは個性を解除した。
「お前の個性は戻した。ボール投げは2回だ...とっとと済ませな。」
あの言い方は、見込みがない...除籍処分と言われたも同然だった。教員の顔になると鬼厳しい消ちゃんゆえの優しさなんだろうけど、あれは私も間違いなく言われるセリフ。でも、それでも彼は...緑谷くんは諦めていなかった。
「SMASH!!!」
大きく振りかぶって...彼はボールを投げた。凄まじいスピードと、爆風を巻き起こして...そして彼の記録を見た消ちゃんの表情は、満更じゃなかった。そして、唇を噛み締めて痛みに堪えながら鬱血する右手人差し指も巻き込んで作り上げた拳は、緑谷くんの覚悟の象徴だった。
「先生...!まだ...動けます!」
「...こいつ...!」
まるで、さっき消ちゃんに言われたことを覆したかのような彼の思いと力と判断力に私は度肝を抜かれた。こんなに人一倍努力してる人がいるのだと実感したし、ヒーローになるためなら多少の怪我なんて怖くない...今の緑谷くんはそう言う顔をしている。その記録に、クラスメイトたちも驚きの声を上げた。
「700メートルを超えた!?」
「やっとヒーローらしい記録でたよ!」
「指が腫れ上がっているぞ...入試の件といい、おかしな個性だ...」
「スマートじゃないね」
「っ.....!どういうことだ...コラ!」
ゴゥ...という炎が燃え上がる音と同時に駆け出したのは、爆豪くんだった。怒りの表情を出して、緑谷くんに突っかかっていく。
「ワケを言え!デクてめェエエ工!!!」
「ひゃああああ...!!!」
もう少しで手が届きそうだったその時、爆豪くんの体を硬い布が制圧した。
「なんだ...この布...!硬ェ...!」
体を抑えられながら目線だけを向けた。その正体は、またも個性を発動させた消ちゃんだった。