第10章 Become! 〈天晶 瑠璃〉
『それじゃあ、最後の締めで観覧車乗ってこうよ』
「そうしようか」
ここの観覧車って大きいから戻ってくるまで20分くらい時間がかかるらしい。それまでに伝えられるかどうか…。緊張…しちゃうよ。
「次の方ー!どうぞー!」
「はい。行こうか」
『うん』
観覧車は妹達をいっぺんに乗せられないからいつも諦めて帰ってきてたんだけど、乗るのは初めてだな。
「今日は楽しかったね」
『うん。すっごく楽しかった。ありがとね。ヒロト君』
「君が楽しんでくれたのなら何よりだよ」
そして急な無言。何も、話す事が無い訳じゃない。ただ、口が開かないだけで。臆病者の私は、どうやったら変えられる?
[君は、強いよ]
本当にそうなのかな?私は、強くなんてない。妹や弟の前では格好つけてるだけ。でも、そんな私でも変えられるなら…。
『私…君に負けたよ』
「…?」
『君が…ヒロト君が、好きになっちゃった』
「…!」
言ってしまった…。答えが分かってる問い。それでも怖いものは怖い。
「分かった。それならもう、遠慮しないから」
『え、ちょ、まっ…んん』
唇が重なる瞬間に見えたのは頂点からの景色。全てがちっぽけに見えた、その瞬間に影が重なる。この時間が終わるまで、あと10分。
『ちょ、ヒロト君…⁉︎あの…』
「瑠璃」
名前を呼ばれると、何も考えられなくなった。真っ白になる世界と真っ黒になる視界。混ざり合って、良く分からなくなる。ゴンドラも中腹辺り。あと、5分。
『んん…ふ…ぅ』
「瑠璃。もうちょっとだけ、我慢」
『つ、着いちゃうよ…!』
「あと1分」
見られちゃうよ…!早く終わって欲しい気持ちもある。でも、終わって欲しくない気持ちもある。五分五分でどっちにも折れそうにない。
『お、終わり!見られちゃうから!』
「残念」
『ず、狡いよ。狙ってたでしょ』
「どうだろうね?」
『も、もう!』
でも、嫌じゃなかったよ。主導権握るつもりだったけど、逆に握り返されちゃった。君なら、良いよ。握り返されたって。
「さて、帰ろうか」
『…』
「瑠璃」
『分かってる』
名前で呼ばれると、どうしても甘くなる。ああ、もう。こんな予定じゃなかったのに。
『ヒロト君のばーか』
「瑠璃。好きだよ」
『ばーかばーか!ヒロト君のばーか!』
駄目だ。これじゃ、こっちが直視できない。今は天邪鬼を許してね。