第58章 Resist!〈朝日奈 乃愛〉£
『懐かしいなぁ…星羅の事件の時にはお姫様様抱っこしてもらったし』
「お前がコケたからな」
『だ、だってあんなに早く階段駆け下りた事ないよ!』
あれで本当に痩せようって思った。中学までは普通の生活を送っていた…いや、そうでも無いかもしれないけど、高校になってからが結構波乱だったから。
「割に運動苦手だろ、乃愛は」
『そうなんだよね…。だから中学だってマネージャーだったし、高校でも絶対運動部入りたく無いって思ったもん』
「得意そうな顔してるけどな」
『こう見えて、全っ然だめだから。瑠璃の方が出来るよ』
「初めてお前の運動してる所を見た時、目を疑ったな。見た目と違いすぎて」
『も、も〜うるさいなぁ。良いの!これから先運動する機会なんて滅多に無いんだから!』
「分からないぞ。もしかしたら急に3km走れとか言われるかもしれないぞ」
うげっ…無理無理。持久走とか死んだ方がマシだと思う。
『ない、絶対ない。大丈夫』
「お前が走りたくないだけだろ」
『そりゃあね』
昔話もそこそこに湯船から上がった。ドアを開けてお風呂場から出て、体を拭いていく。
『お腹すいた…何作ろうかな』
「偶には俺が作ろう」
『え、良いの?』
「ああ」
『わーい!修也のご飯なんて久し振りだよ』
今日は久し振りが一杯です。修也のご飯は高校生の時、熱出して作ってもらったお粥以来。
『そうだ、修也。一つ、聞きたい事があるんだ』
「何だ?」
『遠坂 雪音ちゃんって知ってる?』
「いや…」
可笑しい。聖帝である修也が知らないという事は…この子は千宮路直属か…。グランドシードとして迎えられたあの子はよく医務室にお世話になっている。その度私が看病してあげていた。
『そっか。知らないなら良いんだ』
「何かあったのか」
『あの子は…壊れかけている。研究の実験台にされて…』
「フィフスセクターにいるのか?」
『そう。グランドシードの女の子』
本来ならファーストランクまでしかないシードの階級のその上。あの子はとんでもない才能を持っていると共に、とてつもなく脆い。
『何かが裏で動いている…』
「俺が知らないシードか…」
『気をつけた方が良いよ。千宮路は…何かを企んでいる』
「ああ」
『あの子は…こんな所にいちゃいけない』
「…」
其々の思惑が動き始めている。またしてもサッカー界に暗雲が立ち込めようとしていた。