第58章 Resist!〈朝日奈 乃愛〉£
「雛、雷門中の偵察へ行ってきてくれ」
『仰せのままに。聖帝』
全く、何が悲しくてこんな中二臭い台詞言わなくちゃいけない訳?しかも偽名まで作らなきゃいけないなんて聞いてないし。
「おや、麻乃さん」
『千宮路様』
此奴が少年達の夢を奪っている張本人。本人も闇を抱えている様子が時々伺えるが、そんな事は正直どうでも良い。自分の夢の為なら、他人を踏み付けても平気なのか、貴方は。
『この後用事がありますので、失礼します』
「大学の後だと言うのに、良く働いてくれますね」
『ええ、まぁ』
そのまま会釈をして、千宮路の横を通り過ぎた。今の私の名前は麻乃 雛。朝日奈 乃愛という名前を隠してこうしてフィフセクターの内部事情を探っている。
『失礼します』
「あ、貴方は…」
『お久しぶりです、校長先生。フィフスセクターより参りました、麻乃です』
「あ、ああ…どうも…!それで…御用件は…」
『いえ、ただ単に様子を見にきただけです。許可を頂きたくて』
「そ、そうですか!どうぞ御自由に!」
『ありがとうございます』
一例して雷門中の校長室を後にして、グラウンドへ向かった。相変わらず元気に練習しているみたいだ。確か次は白恋だっけ?白恋も正式にフィフスセクターに付いた筈だ。無理に吹雪君を追い出したと聞いている。
「あれ…君は…」
聞き覚えのある声だ。後ろを振り向くと、行方が知れていない筈の吹雪君が立っている。
『どうも』
「朝日奈さん?」
『いえ、違います。人違いでは?』
「いや、そっくりだよ。その緑の目と茶髪」
『そっくりなだけです』
「強情だね」
身を隠さなければならない理由があった。どうしても知られるわけにはいかない。
「まぁ、良いや。如何して此処に?」
『雷門の偵察に』
「如何して?」
『聖帝のご意向です』
「フィフスセクター…⁉︎」
『あまり大きな声を出さないで下さい。目立ちます』
その瞬間に軌道を外れたボールが此方へ向かってくる。
「下がって…!」
『⁉︎』
そのままボールを受け止める所を見ると、まだまだ現役の様に感じられる。
「目立ちたくないのなら、今は下がっていた方が良いよ」
「吹雪!と…誰だ…?」
「もしかして…円堂。少し席を外す。後は頼んだ」
「あ、ああ」
流石、鬼道君にならバレてもおかしくないな。元から洞察力は優れている人だったから。