第49章 Wound!〈天晶 瑠璃〉
FFHI後、すぐにヒロト君は入院となった。今は手術も終わって、リハビリもきちんとこなせば六月辺りで退院出来るらしい。
『こんにちは、ヒロト君』
「瑠璃。丁度退屈していた所なんだ」
『だからって、抜け出したりしちゃ駄目だよ』
「しないよ。一刻も早く治して、サッカーをやりたいんだ」
本当、生粋のサッカー馬鹿だなぁ。毎日見にきてるけど、必ず一回はサッカーの話題になる。
『私、今日もバレエのレッスンがあるから、これ渡しにきたの』
「ありがとう」
先生から預かったプリントを机の上の置いた。
『新学期になってから、色々変わった』
「聞いたよ。豪炎寺君や鬼道君から」
『サッカー部も、大変だったみたい。男漁り目的で入ってこようとする人もいたみたいで』
「それは大変だね」
『入部テストを設けて、面接をしたんだって。どうにかなったみたいで良かった』
「そうか…。でも、僕達が活躍して日本中、いや世界中が盛り上がった反面、そう言った悪い影響が出てき始めているのも確かだ」
『この悪い影響に乗っかっていかないか心配だね…』
「兎に角、僕達に出来るのは、真摯にサッカーと向き合う事位なんだ」
サッカーと向き合う事。それは、サッカーを愛する者ならば逃げてはいけない事。
『嫌な…予感がする。このまま変に突き進んでしまいそうで』
「瑠璃の嫌な予感は良く当たるからね」
『でも、不思議と大丈夫な気もしてる。円堂君なら、生粋のサッカー馬鹿なら、何とかしてくれるんじゃないかって』
「そうだね。円堂君はそういう力を持ってる」
静かな沈黙が間を通り過ぎていった。この沈黙はサッカーの未来の不安か、それとも…何か別の事なのか。
『私、そろそろバレエのレッスンに行ってくる。今日はあんまり長い時間いられなくてごめんね』
「良いよ。毎日来てくれるだけでも嬉しいんだ」
『じゃあ、また明日ね』
「ああ」
病室を後にすると、窓辺からは夕日が差し込んでいた。そろそろ行かないとバレエのレッスンに遅れてしまう。
『こんにちは』
「また来たわ…。何様のつもり…?」
知ってる。歓迎されていない事だって。私は次の発表会のプリマに選ばれた。勿論、毎日毎日先生の元に通って指導を受けていたからだと思う。FFHIの時も欠かさず毎日特訓をしていたし、大丈夫だと信じたい。
「あの子…たった一年しかやってないのに…」