第40章 FFHI Ⅴ〈綾織 星羅〉
初戦の相手はサウジアラビア代表のザ・バラクーダに決まった。今日は、午前中から監督とマネージャー、そして戦術アドバイザーを交えて作戦会議が行なわれている。
「知っての通り、ザ・バラクーダは今年で大きく選手を入れ替えてきた。多国籍なチームでほとんどの選手のデータは入手出来ない」
「そこで、私達は新しく戦術を考える必要があります。アドバイザーとしての意見は、データが公表されている選手を、敢えて相手にしない作戦でいきたいと思います」
「相手にしない…?」
「はい。しかし、注意を0にするのではなく、その選手が動いた時に対応出来る選手を一人二人位決めておくのが無難でしょう」
「その場合、緑川とアフロディ任せておくのが得策だと俺は思う」
「私もそのように思ってました。二人には情報がある選手の対応をお願いします。ただし勘づかれないように全力で戦ってください」
「無論だよ」
「ああ」
情報が無いなんて、おかしいな。多国籍なら、多少名のある選手を起用する筈。どうして情報もないような選手ばかり…。
『あの…おかしいと思いませんか?』
「星羅?」
『多国籍に手を伸ばしてまで勝ちたいって事は多少名のある選手を起用する筈なんです。それなのに聞いたことも見た事もない選手ばかり。何か裏があると思うんです』
「確かに、そう考えられなくもない」
絶対おかしい。でも、そう考えられるとして、対策は打ちようがない。その場で戦ってみて、その場で即決するしか道がない。
『でも、そうだったとして、対抗出来る策を打ちようがないんです。当日実際戦ってみて考えるしか…』
「取り敢えず、俺達が考えられる事はこの位だな。何があっても対応出来るように基礎体力の向上を狙った方がいいだろう」
「それでは今日のメニューを発表する」
でも、何となく思うのだ。この人達なら、どんな壁でも乗り越えてしまうんじゃないかって。だってそれ程強い信念を持った人達だから。
「今日は私と瑠璃がご飯担当ね。星羅は皆の事宜しく」
『うん。頑張ってね』
「オッケー。それじゃ、もうご飯の準備始めなきゃ」
よし、バインダー持ったし、皆のドリンクも作ってある。後は運ぶだけ…!
「星羅」
『あ、有人君』
「そのクーラーボックスを持って行こう」
『え、良いの?』
「ああ、女子には重いだろうからな。任せてくれ」
『ありがとう』
「気にするな」