第33章 Ring!〈朝日奈 乃愛〉
ほぼ自由を奪われていた瑠璃も帰ってきた。だけど、弟や妹達に会えなかった事と、酷い暴力でストレスが溜まってしまい声が出なくなってしまった。今は療養中で、筆談で会話している。
『瑠璃。来たよ』
「…!」
『寒くなってきたし、足出してたら風邪引いちゃうよ』
「(ずっとこうしているのも暑くて)」
『足とお腹はあっためておかないと』
渋々足を布団の中に入れた。まぁ、此処にずっといるのも暇だろうし、ココアでも入れてあげようか。
『はい。瑠璃、ココア好きでしょ?』
にっこり笑顔で頷いた。瑠璃は好きな食べ物や飲み物には結構目がない。お祭りではかなり爆買いしてしまうタイプだ。
「(ありがとう)」
『あのさ、中学生の時、朧月夜って曲歌ったの覚えてる?』
「(覚えてるよ)」
『星羅と瑠璃はアルトで、私がソプラノだったよね』
「(乃愛ちゃん、声量あったから2:1で足りたんだよね)」
『もう一回、歌ってみようよ』
「(でも、私声出ないんだよ?)」
『大丈夫』
中学の時3人で歌うのが楽しかった。ハモった感覚を楽しんで、笑い合って。
『いくよ…せ〜の』
菜の花畠に 入り日薄れ
見わたす山の端 霞ふかし
春風そよふく 空を見れば
夕月かかりて におい淡し
里わの火影も 森の色も
田中の小路を たどる人も
蛙のなくねも かねの音も
さながら霞める 朧月夜
「…!」
『瑠璃…!』
「声…出た…!」
『やったね!瑠璃…!』
「うん…!」
途中から聞こえてきたアルトの低音。掠れていても純粋な声だった。
『声が出て良かったね、瑠璃』
「ありがとう、乃愛ちゃん。なんか唐突に昔の事思い出しちゃった」
『私達、初めて会ったの中一の時だもんね』
「それからずっとクラスが一緒でね」
『そうそう。本当びっくりだよ』
私達の始まりはなんて事ない普通のきっかけ。それでもこんなに大きな絆に成長した。これからもその絆は止まる事なく成長していく。
『それじゃ、そろそろ帰るよ。お腹空いちゃった』
「そっか…もうお昼…」
『そうそう、夕香ちゃんにお昼作ってあげないと』
「そっか。気を付けてね」
『大丈夫、そこに修也いるから』
「相変わらず、だね」
『それは瑠璃もでしょ』
「あはは…」
『それじゃ、また来るから』
「うん」
瑠璃も元気そうで何より。さて、早く帰らないと。