第17章 Bleed! 〈朝日奈 乃愛〉
『私、医者になりたいんだ』
「…まさか、父さん何か言われたのか⁉︎」
『ううん。私が自分で決めてたの』
「歌は、良いのか?」
『私、歌を職業にしたいとは思ってない。あくまでも趣味の範囲内だから』
「やっぱり、父さんに何か…」
そんなにムキになる事無いよ。私はこの決断を悔やんで無いんだから。
『確かに、お父さんから昔の話を聞いた。でも、それでも私は自分で決めたの。お父さんに強制されて医者になるわけじゃ無い』
「本当、なんだな」
『うん、本当。私、豪炎寺が間接的に人を救うなら、私は直接人を救ってみたいと思った。それだけなの』
「…」
『信じてよ。私の事』
「…分かった。お前がそこまで言うなら、俺はお前を信じる」
『ありがと。医者になっても、歌は歌えるの。でも、歌手になったら医者として人は救えない。私、歌うのが得意だからこそ、間接と直接どっちも出来る人になりたいの』
「お前らしい」
『でしょ?』
良かった。納得して貰ったみたいで。でも、まだ豪炎寺とお父さんの間で少しの段差がある。一回、ゆっくり話してみるのが良いのかもしれない。
「もう寝るか?」
『うん、そうする』
「おやすみ、朝日奈」
『おやすみ、豪炎寺』
部屋に戻って、寝る事にした。寝る前にスマホを確認しようと思って見てみると、一件のメールが来ていた。
[乃愛へ
今迄お前の気持ちも考えず、何でもかんでも押し付けてしまってすまない。俺達はどうかしていた。望んでもいない人と結婚なんて、幸せな筈が無いよな。それに、俺達は利益に目が眩んでお前の事を放っておいてしまった。本当に申し訳ない。今迄の俺達が恥ずかしい。こんなメールで許されるとは思っていないが、謝らせてほしい。すまなかった。]
メールアドレスを見るとお父さんからだって分かった。鬼瓦刑事が言ってたのってこの事だったんだ。やっと、戻れるんだ…。ちゃんとした家族に。でも、きっとお父さん達は仕事を放ってくる人では無い。日本に戻ってくるのももっと先になると思う。
『お父さん…お母さん…』
今日は、涙が出る日だ。明日きっと目が腫れてるんだろうな。やっと分かり合えたよ。やっと…。鬼瓦さんに今度ちゃんとお礼言わなきゃ。本当、あの人は頼りになる刑事さんだ。
『ふぁ〜あ』
寝ようと思った瞬間に思い出した。昨日の夢。やけに鮮明だったけど…。本当に夢、だよね。