第4章 失恋バナナ〈十四松〉
「・・・花子ちゃん、温かいね。」
『さっきまでお風呂入ってたからね。』
「だからか。花子ちゃん、いい匂いするね。」
十四松くんはギューっと抱きしめたまま、顔をあげることはないが話続ける。
『十四松くんは・・・、冷たいね。』
「さっきまで雨に打たれてたからね。」
『やっぱりね。十四松くん、雨の匂いする。』
お風呂に入って火照った身体と、雨に打たれて冷えきった身体が合わさると私たちの身体は丁度いい温度になった。
「花子ちゃん、ぼくね失恋しちゃった。」
『うん。』
「出会ったばかりだったけど、ぼく、本気で彼女のこと好きだったんだ。」
『うん。』
「だから、遠く離れちゃったけど彼女が幸せだったらそれでいいって。彼女が幸せだったらぼくも幸せだって。」
『うん。』
「心の底からそう思ったよ、新幹線に乗って姿が見えなくなるその瞬間まで。」
『うん。』
相槌をうちながら手持ち無沙汰だった両手で十四松くんを抱きしめ、時おり背中をさする。
もちろん一松くんからある程度話は聞いて知っていたが、ここは聞くに徹するべきだと思い十四松くんの思うがままに話をさせた。
ポタポタと十四松くんの髪からはまだ雨水が垂れていた。その水はやはり冷たく火照っていた身体もだんだんに冷えていった。
それでも、きっと十四松くんの心の方が冷えきっているはずだと思うとやはり離れることはできなかった。