第2章 思ひ出ほろりん〈カラー松〉
それから、何年も過ぎた。
割れるような頭痛を感じたことまでは覚えていたが、あれからどうしたのか、今となってはもう思い出すこともできない。
『一松くんも行く?』
目の前にいる大人になった花子がおれに問いかける。
・・・あぁ、お昼の買い出しか。
思い出に浸りすぎたな。
「・・・行こうかな。」
「よし、ブラザー。出発だ。」
そして3人で近くのスーパーに行き、お昼はクソ松特製のカルボナーラを食べた。
『カラ松くん、料理上手なんだね。すごい美味しかった。』
「フッ、任せなカラ松ガール。またいつでも作るぞ。」
そういえば、カラ松くんが教えてくれた映画よかったよ、なんて仲良さそうにクソ松と花子は楽しそうに話していた。
・・・まるでおれがいないかのように。
買い物中だってそうだ。
気付けばカゴはカラ松が持って、買い物した荷物だってアイツが持っていた。
行き帰りはさりげなく車道側を歩いていて。
どれだけその優しさに花子が気付いているかは分からないが、花子だってゴミでクズな一松なんかよりクソ松を選ぶだろう。
「なぁ、一松。」
「・・なに?」
名前を呼ばれ、向き直すとお腹いっぱいになった花子はリビングのソファーで寝ていた。
仕事で疲れているのか、その目にはくまがあって少し心配していたが、気持ち良さそに眠る花子はやっぱり可愛かった。
「花子のこと、好きなのか?」
「はぁ?」
「真面目に聞いているんだ。」
もう一度花子の方ちらっと盗み見る。
・・・そりゃ、好きだ。
でも今更言えない。言えるわけない。
「・・なんとも思ってない。」
あの時と同じように、おれは思ってもいないことを口から吐いてしまった。だからいつになってもおれはゴミでクズな一松のままなんだ。
「そうか。じゃあ、本気でオレがカラ松ガールにしても文句言うなよ、ブラザー。」
「・・勝手にしろよ。」
クソ松は、寝ている花子の髪を優しく指の間に通すと愛おしそうにその髪にキスを落とした。
(「・・・イタイよね。」)
(「へ?」)
(「よく人前でできるよね。」)
(「うっ」)
(「死ねよ。」)
(「えぇぇ!」)