第1章 始まりは突然に・・〈一松〉
6つ子にだって、ヒミツはある。
そう、おれには、あいつら5人には言えないヒミツがあった。
「・・・にぼし、持ってきたぞ。」
『今日も来てくれたんだね、・・・一松くん。』
「ニートでゴミみたいなおれが来て、不快だよね。なんかごめんなさい。息止めます。」
『えぇー!ちょ、ちょ、思ってないよ。そんなこと、息して!』
路地裏に溜まるネコたちににぼしを与えるのがいつの間にか日課になっていたおれの前に現れたのは、幼なじみの花子だった。
中学生のころアメリカに引越してしまった花子が、長い年月を経てまたこの街に戻ってきたのは2週間前のこと。
この路地裏の隣のビルの4階で、花子は人材派遣とやらの仕事をしているのだという。
お昼休みに時間があるときは、こうやってネコたちに餌をあげてるらしく、たまたまここで鉢合わせたのは先週のことだった。
おれたち6つ子はみんな花子と仲が良かったから、この街に戻ってきたことを知ったらバカみたいにタッティして、バカみたいに喜ぶと思う。
それでもおれがヒミツにしている理由は、花子を独り占めしたいとかそんな小さな独占欲ではない。
「・・・腕、見せてみろよ・・・」
おれの問いかけに花子は渋々と袖を捲り両腕を見せてきた。
「・・・だいぶ良くなったんじゃねぇの。」
『うん、お陰様で・・。』
「いや、おれは何もしてないけど、」
花子がこの街に戻ってきたのは、付き合っていた彼氏の暴力から逃げるためだった。別れたあとも付きまとわれ、暴力を受けていたらしく、先週初めて再会したときは腕も足も痣だらけでとても痛々しかった。
おれたち6つ子もクズだと思っていたが、女の子に暴力を振るうなんてゴミ以下だ。
そのせいで花子は男性恐怖症になってしまったらしく、もちろんおれとも一定の距離を保ちながら会話をしていた。
そんな花子の目の前に、ニートで童貞で下心丸出しのバカ兄弟を連れて来るわけにはいかないから、ヒミツにしているのだ。