第3章 正体
「桜さん、お客様お連れしました」
男衆の一言と共に襖が開き
失礼しましたと開かれた襖が閉じた音を聞き
下げていた頭を上げるとそこに立っていたのは
ここでは会いたくない人だった
「桜」
『平助…くん……?どうして…、』
この人には知られたくなかった
こんな穢れた私なんて知られたくなかった
「…驚かせたよな」
『いえ…、』
少しの沈黙が続き
お互い気まづい雰囲気が漂う
『…平助くん』
仕方ない事だと自分に言い聞かせて
平助くんの体に手を伸ばそうとすると
伸ばした手をそっと握られた
「……そんなことしなくていいから
俺がいる時は普通に酒とかお茶
飲みながら話してくれればいいからさ
したくない事、無理にしなくていい」
『平助くんも知ってるでしょう……?
ここが何をするところかで
私がどんな仕事をしているか』
「知ってる」
『それなら……っ』
「だからこそさ、何もしなくていいよ
お前が汚いとかじゃなくて
俺がいる時ぐらいは
少しでも心と体休めて欲しいんだ」
な?と優しく頭を撫でてくれる平助くんは
汚いモノを見る目じゃなくて
1人の"私"を受け入れようとしてくれているようで
他の男(ひと)とは違う特別なものを感じてしまっていた
それから、平助くんは
お酒を飲みながら他愛もない話をして
"またな"と変わらない明るい笑顔を残して帰っていった