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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第5章 見返りはパン以外で




急激な喉の渇きを覚え、ムギは目を覚ました。

(……今、何時だろ。)

長らく眠っていたような気がして、視線を彷徨わせて時計を探す。
しかし、いくら手を伸ばしても、ベッドサイドに置いてあるはずの目覚まし時計が見つけられない。

(あれ、なんか……、ベッドの感じが変……?)

マットレスの感触も、シーツから漂う匂いも、ベッドフレームの造形もなにもかもが異なり、寝ぼけ眼を擦って瞬いた。

「なんだ、起きたのか?」

「ふぇ……!?」

いきなり美声が降ってきて、ムギの心臓は危うく口から飛び出そうになる。
見ると、部屋のデスクでローが読書を中断して顔を上げるところだった。

(そうだ、思い出した。ここ、私の家じゃなかった……!)

眠る前の記憶を一気に思い出し、ムギの顔色は赤くなったり青くなったり忙しい。
熱が下がって正常な思考を取り戻したら、自分が置かれている状況が恐ろしくてぶるぶる震えた。

「どうした、寒いのか?」

「い、いえ。」

あんたの行動が信じられないんじゃ!とも言えず、掠れた声で誤魔化すと、「あぁ……」と勝手に納得したローは、ミネラルウォーターが入ったペットボトルを手渡してきた。

「飲め。喉が渇いたんだろ?」

「あ……、ありがとうございます。」

喉が渇いていたのも本当で、ありがたくキャップを開けて口をつけた。
タクシー代と食事代と飲み物代。
ローに返さなくてはいけない金額が増えていく。

というか、雑炊代はいくらで換算したら良いのだろう。
材料費で考えたら数百円でいいとしても、手間賃を含めたら支払額は未知数だ。

しかも、作ったのはローである。
彼に集る女生徒に売りつけたら、軽く万は超える気がした。

よくよく考えると、ムギは今、とてつもなく贅沢な立場にいる。
ローに手料理を振舞われ、看病され、なおかつベッドを占領するなど、彼のファンからすれば殺意を向けられてもおかしくない夢のシチュエーション。

例えムギが望んでいたわけではなくても、周囲に言えない秘密がまたひとつ増えてしまった。

女の嫉妬は怖いのだ。



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