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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第5章 見返りはパン以外で




ムギのことばかりを考えるローが、下校時にバラティエに向かったのは必然だった。
夕方もバイトをしていると知っていたので、朝はいなくても今ならば会えるかもしれない。

なぜムギに会いたいのかもわからないまま、早足で商店街を歩いていたら、彼女を見つけた。

しかし、探していたムギを見つけた場所はバラティエではなく、商店街の中だった。
マスクで顔を隠し、くったりと俯いていても、すぐにムギだと気がついた。
女の顔はただでさえ覚えられないのに、なぜムギだけは別格なのだろう。

その理由を追求する前に、当の本人と目が合った。
顔を赤らめ、潤んだ瞳を向けたムギはぺこりと会釈すると覚束ない足取りで歩みを進める。

(風邪か……?)

顔を見ただけで発熱していると察し、心配で胸の中が埋め尽くされる。

熱はどのくらいあるのだろう。
病院は行ったのか、薬は飲んだのか。
それよりも、そんなふらふらな状態で外を出歩くなんて何事だ。

焦りと不安、ちょっとした怒りを覚えながらムギの背中を追うと、ふらつく彼女は中学生と肩をぶつけてよろめいた。

イヤホンをつけた中学生にはたいした衝撃ではなくても、ムギにとっては大打撃。
放っておけば倒れてしまいそうなムギに駆け寄り、両肩をしっかり掴む。

初めて支えたムギの身体は、ローの想像以上に細くて軽かった。

「大丈夫か?」

熱で潤んだまん丸な瞳がローを映した途端、言葉じゃ言い表せないほどの衝動が胸に走る。

抱きしめたかったのかもしれないし、噛みつきたかったのかもしれない。
よくわからない衝動を堪えながら、確かに思ったのだ。

捕まえた、と。



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