第5章 見返りはパン以外で
貴重な手作り雑炊を一滴残らず平らげたムギは、両手を綺麗に揃えて頭を下げた。
「美味しかったです。ごちそうさまでした。」
「薬は飲んだか?」
「はい。」
「なら、もう寝ろ。そこのベッドを使え。」
「はい?」
聞き間違いかな、と思ったムギをどうか責めないでほしい。
病院に連れていってくれて、ご飯を作ってくれるまでは、信じられないけれど世話焼きの範疇だとしよう。
しかし、自分のベッドで眠れというのは、いくらなんでも行き過ぎではないか。
「あのぅ、そこまでお世話になれないんで、わたしはそろそろ帰ります。」
「俺が寝ろと言ってるんだ、お前がどうこう気にする問題じゃねェ。」
気にする問題だろう、どう考えても。
ここで厚かましくベッドを借りるようなやつならば、ローは交友関係を見直した方がいい。
「家族が帰ってこないと言ったな? ひとりの時に容体が悪化したらどうする。」
いや、くれはの薬はよく効くと言ったじゃないか。
それに日本には、救急車という最終手段が残されているのだ。
というか、ローのベッドで眠ったら、風邪が治るどころか体温が上昇して悪化しそう。
「どうにかできるんで、帰っていいですか?」
「俺が許すと思うのか?」
そもそも、なぜローの許しが必要になるのかが理解不能だ。
ムギには男友達がいないけれど、まさか世間一般の男友達全員がこんな距離感だとは考えにくい。
「俺に見つかった時点で、お前は逃げられねェんだよ。」
それは、いつのことを言っているのだろうか。
バラティエ帰りに偶然出くわしたこと?
不運にも同じ合コンに参加してしまったこと?
それとも、もっと別の……。