第5章 見返りはパン以外で
「美味しいです、すごく。」
「ただの雑炊だ、別に無理して褒めなくてもいい。」
心からの賛辞だったけれど、お世辞と思っているのか、ローの態度は素っ気ない。
「本当なのに。というか、料理できるのすごいですね。」
「……普通だろ。料理ってほどのもんじゃない。」
「や、普通じゃないと思いますけど。わたしは全然できなくて……。ああ、お米なんてずいぶん久しぶりに食べたな。」
ムギはこれでも、ひとり暮らしをしている身。
家事をするようになってしばらく経つが、掃除洗濯はともかく、料理だけはちっとも上達しない。
「米を食べない? どういう生活をしてやがるんだ。」
「どうって、パンだらけの生活ですよ。最後にお米食べたのは確か、叔父さんの家にいた時かな。」
「叔父……?」
「ああ、いえ……。」
美味しさと熱に浮かされて、余計な話をしてしまった。
お茶を濁す代わりに雑炊で話題を濁し、二口三口と胃に収める。
「食い終わったら、薬を飲んで寝ろ。ババアの処方は間違いねェから、解熱剤もすぐに効いてくる。」
「なにからなにまで、ありがとうございます。さっきの先生とは、知り合いなんですか?」
「まァな。俺の知り合いというより、親の知り合いだ。あそこは昔から、うちの病院と付き合いがある。」
「うちの、病院……?」
「ああ、うちの家業は外科医院だ。」
はい、出た。
容姿が良くて、料理ができて、世話焼きで、親が医者とかハイスペックすぎるだろう。
この分だとたぶん、ロー自身も将来は医師になるとか、そういう未来が見えてしまう。
(つくづく、雲の上の人だなぁ……。)
よくわからない成り行きだったが、こうして友達になれたのは奇跡に近い。
奇跡にしては、本当に強引な手法だったけれど。