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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第5章 見返りはパン以外で




元気が出るのと元気になるのとは、まったく別次元の話なんだなぁ……と、ムギは身をもって知った。

バラティエを出て数メートルも歩かないうちに、ひどい頭痛と倦怠感に悩まされる。
これから買い物をして、なおかつ家へ戻る道のりを考えたら、このまま行き倒れたい衝動に駆られた。

(ご飯作るの、無理かもしれない……。)

調子に乗って外出したムギのヒットポイントは残り僅かで、無駄になるのならば買い物は諦めようかと考え始めた時、駅の方角から見知った顔の男が歩いてくる。

(わぁ、幻であってほしい……。)

前から歩いてくるのは、昨夜“友達”になったばかりの男。
昨日は帰宅後、強制的に知ってしまった連絡先にメールを送った。
内容はシンプルに「帰宅しました、お疲れ様です」とだけ送ったのに、彼からの返事は「わかった、また連絡する」という思わず二度見する内容だった。

また連絡する?
なぜ、なんのために、どのような。
教科書に出てくるような副詞が頭に浮かんでは消えていく。

正直、なにを考えているかわからない人ほど怖いものはない。
今のムギにとってローとは、恐怖の大魔神的な存在であり、できるならば顔を合わせたくない。
でも、物陰に隠れるほどの体力は残っていないし、このまま通り過ぎるしか方法はなく、ムギはなるべくローを見ないようにしながら道の端を歩いた。

人間、見てはいけないと思えば思うほど、つい見たくなってしまうのはどうしてなのだろう。
ほんの一瞬、本当にちらりと視線を向けただけなのに、運悪く恐怖の大魔神と目が合ってしまった。

「……。」

目が合った以上は無視するわけにもいかず、ぎこちなく会釈をした。
マスクで顔を隠していたせいで、ローには誰だかわからなかったかもしれないけれど、一応礼儀は通したのだ。

ちょっとしたアクシデントのせいでムギの体力はますます削られ、重たい身体を引きずるようにして歩き続ける。
あまりにもフラフラしていたせいで、イヤホンをつけた中学生と肩がぶつかってしまう。

「……ッ」

バランスを崩した身体はたちまち傾き、転んでしまいそうになった。

だが、ムギが地べたに膝をつけることはなく、代わりに逞しい腕が身体に絡んだ。



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