第5章 見返りはパン以外で
「……それじゃあ、わたしはこれで。明日は来られるようにしますので、すみませんでした。」
「ムギちゃん、店は気にしなくていいから明日も休んでよ。熱が下がっても、無理をしたらぶり返すぞ。」
「……はい。」
ムギがいないせいで確実に皺寄せがあるだろうに、サンジもゼフも本当に優しい。
うっかり泣いてしまいそうだ。
「顔色が悪いな。お前はひとり暮らしだろう、なんなら上で休んでいくか?」
バラティエの二階はゼフとサンジの居住区になっていて、二人はそこで寝起きをしている。
犬猿の仲なのに、同じ釜の飯を食うとはおかしなものだ。
「いえ……、移したらいけないので……。」
「菌が移るほど、ヤワな身体はしてねぇよ。それに、お前ひとり面倒を見るくらいなんでもねぇ。」
「え、男前。店長、素敵……。」
「……意外と元気あるな?」
冗談を言えるくらいの余裕はまだある。
ゼフの提案には甘えたくなったけれど、万が一にも移してしまったら、それこそバラティエは休業ものだ。
だから、なるべく元気があるように笑って椅子から立ち上がった。
「そろそろ帰ります。みんなの顔を見たら元気出ました。ご飯食べてゆっくり寝れば、明日には治ると思うので……。」
「送っていくか?」
「大丈夫です。」
「なら、辛くなったら連絡寄越せよ? 何時だろうが構わねぇ。」
ゼフは電話を持っていないので、実際にはサンジに連絡をすることになるが、それでもなんと素敵な発言だろう。
「惚れそうです……。結婚してください。」
「はッ、100年早ぇよ。」
「100年……。店長、熟女が好きだったんですね……。」
「……いいからさっさと帰れ!」
ゼフに怒鳴られると元気が出てくる。
ムギはにへらと笑って、バラティエをあとにした。