第4章 注文はパンとレッサーパンダを
ムギに抱く印象として、彼女はいつもローに対してドライだったから、そういう性格なのだろうと思っていた。
あながち間違いではなく、ムギは己の興味が向かない事柄には限りなく無関心である。
けれども、ひとたび興味があることに話題が向くと、ひたすら熱弁をふるう悪癖の持ち主だった。
それは対人間にも現れていて、ゼフとサンジが良い例である。
心から尊敬しているゼフに対しては尻尾を振って懐くムギだが、下心丸出しのサンジに対しては一歩引いてドライな態度を貫き通している。
ジュースを飲み干したムギは、まん丸の目をハッと見開いて我に返ったようだ。
「あ、ごめんなさい。つい。」
やっちまった……と言いたげなムギは、過去にもこれで失敗しているのだろう。
現に、ムギを連れてきた女性陣は漏れなくドン引きしている。
「おれ、ちょっとわかるなぁ。」
ムギの意見に賛同したのは、ムギの真向かいに座っていたベポだった。
合コンという場に緊張していたベポは、自己紹介以来まったくといっていいほど会話に参加していなかった。
「……わかりますか?」
「うん。おれも缶詰タイプの貯金箱で貯めてるんだけど、毎回蓋を開けるのが楽しみで……。」
「ああ、缶詰タイプですか。わかります。あの数えたいのに数えられないもどかしさがツボに入りますよね。」
「おれ、意志が弱いから、開けられるタイプだと貯められなくて。」
「はい。開ける瞬間が待ち遠しくて、たまに夢に見ますもん。」
噛み合っているようで、会話自体はあまり噛み合っていない。
ベポが貯金箱を愛用していたというのも、これが初耳である。
けれどムギは、気が合う話し相手が見つかったのがよほど嬉しかったのか、ふわりと笑ってローに言った。
「合コンって、意外と楽しいですね!」
断言はできないが、お金の話を懇々とする合コンは、普通の合コンではない。
しかし、そんな些細な問題よりも、ローは自分に向けられたムギの笑顔を凝視し、目を瞬いた。
いつも店で向けられるような営業スマイルではなく、本物の笑顔がそこにはあった。
どくん、と音を立ててローの胸に不整脈が発生する。