第4章 注文はパンとレッサーパンダを
どうしてこうなった……。
帰りの電車の中で、ムギはすっかり憔悴していた。
愚かにもお金の話で火がついたムギは、あれからもベポと楽しく会話を続け、気がついたら最後まで居座ってしまったのだ。
ローの隣を占領した挙句、雰囲気をぶち壊したとあっては、プリンたちに顔向けができない。
怯えるムギに対してプリンは「また学校でね?」と可愛らしい笑みを向けてきたが、その裏に三つ目の鬼が潜んでいると思うと、登校拒否をしたくなるほど恐ろしい。
またなにがキツイって、少し考えればわかることだが、ムギとローは最寄り駅が同じなのだ。
当然帰りの電車も同じなわけで、なぜ適当な理由をつけて早めに退散しなかったのかと自分を責める気持ちでいっぱいである。
悔やんだところでもう遅く、電車の椅子に座るムギと、ムギの前に仁王立ちするが如く吊革に掴まって立つローの図が完成した。
(せめて、違うところに立ってくれないかな。)
ひと席だけ空いていた電車の椅子に座ったのは、あそこに座ればローと離れられると思ったからだ。
しかし、彼の思考回路はどうなっているのか、ローはムギのあとを追って目の前に立つ。
せめてなにか喋ってくれれば気も楽になるのに、黙ってムギを見下ろすものだから、もう寝たフリでもしてしまいたいくらいだ。
ただでさえムギは座っているのに、高身長のローから見下ろされると、威圧感が半端じゃない。
結局会話らしい会話はなく、駅に到着した時には、安堵のため息が漏れてしまった。
「あ、じゃあ、わたしはこっちなんで。」
ムギの家は、駅を出てバラティエとは反対方向にある。
ローはバラティエの方向なので、ここでお別れだ。
しかし、なにを思ったのか、彼はムギの横に並ぼうとする。
「送る。」
「えッ!? あ、いや、大丈夫です。うち、駅からちょっと歩くんで。」
「なら、なおさら送った方がいいじゃねェか。」
「大丈夫です!」
わりと強めに断ったら、むっつり黙った。
なんだこれ、どうすればいいんだ。