第4章 注文はパンとレッサーパンダを
無心でスパゲッティを口に入れ、お腹を満たしたら適当な理由をつけて帰ろう……とムギが思った時、隣の女子との会話に区切りをつけたシャチがこちらを向いた。
「えっと、ムギちゃん……って呼んでいい?」
「はい。」
「よく食べるね、お腹空いてたの?」
「まあ、そうですね。」
別に腹ペコだったわけではないが、美味しい料理を美味しいうちに食べないのは、ムギにとって食への冒涜に値する。
「もしかして緊張してる? 合コンとか初めて?」
ムギの口数の少なさは、決して緊張のせいだけではないのだけど、そういうことにしておこう。
「そうですね。シャチ……先輩は、そうじゃないんですか?」
慣れた様子からして初めてじゃないことくらいわかっていたけれど、社交辞令的な質問である。
「まあね、けっこう来るかな。」
嘘をついて初めてだと言うよりかは、素直に慣れていると口にした方が好感が持てる。
しかし、次の発言には苦笑を隠せなかった。
「ほら、さ。別に彼女が欲しいってわけじゃないんだ。なんていうか、友達の輪を広げたいだけで!」
どこかで聞いたようなセリフである。
こういう時はなんだっけか、とサンジにもらったアドバイスを思い出し、口を開いてみる。
「じゃあ、フットサルチームに…――」
「シャチ。」
助言どおりのセリフを口にしかけたところで、誰かがシャチの名前を呼んで遮った。
「あ、キャプテン。」
キャプテンって誰だよ……と思い後ろを振り向いて、ムギはぎょっと仰け反った。
「席、代われ。」
「アイアイサー。」
グラスを手にシャチと席を代わったのは、合コンのメインディッシュであろう、トラファルガー・ローだった。