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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第4章 注文はパンとレッサーパンダを




トイレから戻ってきたムギは、すぐに己の行動を後悔した。
少し席を外している間に、席替えなるものが行われてしまったのだ。

(うわぁ、最悪。)

ムギが座っていた左端の席はそのまま空いており、むしろそこしか空いていないので座らない選択肢はない。
けれども右隣にいたはずのプリンは、ちゃっかりローの隣をゲットしていて、元プリンの席にはシャチが座っている。

先ほど彼は最後まで言わなかったが、たぶん、「思ったより可愛くない」と言いたかったのだ。
プリンを含めた参加者は全員可愛いので、しかたがない感想だと思う。

右隣の女子と楽しそうに会話をするシャチに気がつかれないよう椅子に座ると、無意識にため息が漏れた。

(ああ、早く帰りたい。)

せっかくの休日に、ムギはいったいなにをやっているのだろう。
好まない合コンに参加し、気まずい空気に苦しみ、緊張のせいで料理の味もわからない。

(……前向きに考えよう。もしかしたら、ロー先輩もわたしだって気づいてないかもしれないし。)

バラティエのコックシャツでもなく、学校の制服でもなく、今日のムギは私服である。
さすがに雰囲気も変わるだろうし、ローが気づいていない可能性も十分にあった。

(そうだよね。うん、きっとそう。)

逃げ道ができたおかげで、心にゆとりが生まれ、料理の味がわかるようになってきた。
ピザとパスタが美味しいと評判のレストランの料理は、噂に違わずカリカリのピザ生地やパスタの茹で加減、味付けにおいても一級品。

ムギの中ではピザとパンは別物と考えているが、ローの中では同じらしく、彼はピザに手を伸ばそうとしない。

というか、みんなお喋りに夢中で料理にあまり手をつけない。
ピザのとろとろチーズなんかは時間との勝負なのに、そうは思わないのだろうか。

(そんなに食べないなら、わざわざ美味しいレストランにしなければよかったのに。)

ワントーン高い声で話すプリンや、鼻の下を伸ばすシャチを見ていたら急に心が冷えていって、ムギはしらけた気分でスパゲッティを取り皿に分けた。



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