第4章 注文はパンとレッサーパンダを
どうしてこうなった。
プリンに指定されたレストランに到着したムギは、口から魂を半分だけ出しながら、生気を失いつつある目で遠くを眺めた。
「じゃあ、自己紹介をしましょうか。まずは私からね。私はシャーロット・プリン。スペード高校の二年生です。」
花柄のワンピースを着て、いつになくお淑やかなプリンは、ムギの知る彼女とイメージがかけ離れていた。
プリンが連れてきた他の女子たちも同様で、みんな眩しいほどにオシャレをして、可愛いらしい態度で挨拶をする。
しかし、今のムギに自分の場違いさを気にする余裕はない。
なぜなら、今日の合コン相手はハート高校で、目の前には今一番会いたくないはずの男が座っていたのだ。
彼女がいるという憶測は、ものの見事に壊された。
(誰か、夢だと言って……。)
現実逃避気味の願いを念じても、これは夢じゃないから覚めてはくれず、そうこうしているうちに、ハート高校側のメンバーが自己紹介を始めてしまう。
「今日は来てくれてありがとう。俺はシャチ、ハート高校の二年だ。よろしくな!」
「こっちは全員二年ッス。俺はペンギン。よろしく。」
「えーっと、ベポです。」
それぞれが自己紹介をしたあと、プリンたちの本命であろう彼も名乗る。
「トラファルガー・ローだ。」
魂が抜けかけていたせいで、ムギが一番最後になってしまい、消え入りそうな声量で名前を告げる。
「……米田ムギです。一年です。」
「え!?」
あまりに小さな声で呟いたから聞き取れなかったのかと思ったら、シャチと名乗った先輩がサングラスの奥で驚いて目を見張っていた。
「君が米田ムギちゃんなの!?」
「はあ……。」
君が、とはどういう意味だろう。
「いや、意外だな……。もっとこう……いてッ」
途中で言葉を止めてしまうから、なにが意外なのかさっぱりわからなかった。
それにしても、なにが起こったのだろう。
シャチはしきりに脛をさすっているが、肉離れでも起きたのだろうか。
若いのに不憫だ。
「すみません、ちょっとお手洗いに……。」
予期せぬ状況に耐えられなくなったムギは、冷静さを取り戻すべく、トイレに立った。
適当に話をしたら帰っていい約束なので、あと少しの辛抱である。