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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第4章 注文はパンとレッサーパンダを




適当な雑誌を手に取り、半分以上顔を隠しながらローをこっそりと眺めた。
休日のローは、黄色い無地のシャツに薄手の黒いパーカー、それからスキニージーンズという、いたって普通な服装だった。

ネックレスや腕時計などをしているものの、決して着飾っているわけではなく、それなのに洗練された雰囲気を纏っている。

どんな服装をしていても格好良く見えるのは、顔も体格もいいローだからこそ為せる技。
どこにいても目立つローは、本屋にいた女性客の視線を一身に集めている。

世の中は本当に不公平。
身長を5センチでもいいから分けてほしいと羨望の眼差しを送ったら、不意にローがこちらを振り向いた。

「……ッ!」

慌てて視線をあらぬ方向へ移動させ、ゆっくりそっぽを向く。
以前も思ったが、ローは視線に敏感すぎる。

周囲にいる女性たちだってローを見ているのに、なぜいつも気づかれてしまうのか。

(……いや、自意識過剰かな?)

彼がムギの視線に気がつくなんて、恥ずかしい勘違いだ。

この感じは、駅のホームでローと目が合った時によく似ている。
電車ですれ違いざま、ローとはよく目が合うけれど、あれはただ、ローが外を見ているから必然的に視線が交わってしまうだけ。

そう思ってから、最近はあえてローと目を合わさないようにしている。

そういえば、以前も駅で視線に気づかれたことがあったけれど、あの時は告白をしてきた女子に酷い態度を取り、性格が悪い男だと幻滅したものだ。

しかし、僅かでもローと接点を持ってみると、彼はムギが思うような性悪男ではないとわかる。

もしかすると、ローには恋人がいるのかもしれない。
大事な彼女のために、告白を冷たくあしらっているのだとしたら、むしろ好感が持てた。

妄想を膨らませつつ、読んでもいない雑誌を棚に戻して時計を確認したら、集合時間の15分前。

まだ向かうには早いけれど、これ以上ここにいたら神経を無駄にすり減らしそうで、ムギは逃げるように本屋を出た。

ローがここにいることが偶然でもなんでもないと知ったのは、まさしく15分後の話。



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