第4章 注文はパンとレッサーパンダを
駅に降り立ったムギは、改札を出て駅ビルの本屋に入った。
暇を潰すなら、雑誌を立ち読みできる本屋が最適だと思ったからだ。
家が狭くなるため、あまり本は買わない。
最近はバイト三昧だったから、本を読む機会もすっかり失われていた。
本といえば……と、ついついローの顔を思い浮かべてしまう。
毎朝毎朝コーヒーを飲みながら本を読む彼は、いったい家に何冊の本を所持しているのだろう。
ローが読んでいる本は、布製のブックカバーがしてあって、ムギは本の内容を知らない。
けれど、本の厚みからして漫画の類ではないのだろう。
(やっぱり頭のいい人って、頭がいい本を読むのかなぁ。)
なんて、いかにも馬鹿っぽい考えを巡らせていたら、本棚の向こう側に見知った顔を見つけてしまった。
(ひぎゃ……ッ)
奇声が心の中に留まったのは、奇跡に近い。
噂をすれば、なんとやら。
ムギが見つけてしまったのは、私服に身を包んだトラファルガー・ローだった。
(なんでロー先輩が……!?)
ローを発見したムギは、本棚下方の雑誌に興味があるフリをしつつ、なるべく不自然にならないようにしゃがみ込んだ。
雑誌コーナーの本棚は約150センチくらいの高さがあるが、日本男子の平均身長を余裕で上回っているローは本屋の中でよく目立つ。
(バラティエと駅以外で会うの、初めてだ。嫌な偶然……。)
会ったといっても、一方的にムギが見つけただけなのだが、サンジが余計な発言をしたと昨日知ったばかりなので、心の中に気まずさが残っている。
ここはムギたちの最寄り駅でもないし、あまり本を読まないムギが書店に寄ったのだって本当にたまたまだから、このタイミングで同じ空間に居合わせてしまうのは、嫌な偶然と呼ばざるを得ない。