第4章 注文はパンとレッサーパンダを
「って、なんでそんなこと聞くの? ……まさかムギちゃん、合コン行くの!?」
「え……、いやぁ、友達が、友達が今度行くから。」
なんとなく恥ずかしくて、自分が合コンへ行くとは言えず、嘘をついてしまう。
サンジも「そっか、だよね」と納得し、ムギは周囲から“男っ気がなく、恋愛に興味がない女”と思われているようだった。
「じゃあ、その友達に言っておきな。ああいう場所で“彼女作りたいわけじゃなくて、友達の輪を広げたいだけ”とかほざいてるヤツが一番危ねぇからって。」
「はあ……。」
「ダチの輪を広げたいなら、フットサルチームにでも入れって返せばいい。」
「わかりました。」
なんだろう、なにか嫌な思い出でもあるのだろうか。
「……じゃ、お言葉に甘えて上がらせてもらいますね。」
「うん、お疲れ。あ、そうだ、厨房に割れちゃったラスクがあるから、持って帰っていいよ。」
「やったー、ありがとうございます!」
ルンルンで取りに向かおうとした時、思い出したようにサンジが「あ……」と声を上げた。
「そうだ、ムギちゃん。この前さ、あいつに忠告しておいたんだ。」
「あいつ……?」
「ほら、毎朝コーヒーだけ飲みに来る高校生。」
バラティエに毎朝コーヒーを飲みに来る高校生はひとりしかおらず、イートインコーナーに座るローの顔を思い浮かべた。
「忠告って、なにをですか?」
もしかしてコーヒーだけで居座るなとか、そういう内容だろうかと危惧していたら、サンジはムギの予想を遥かに超える事実を口にした。
「ムギちゃんに優しくされてるからって、勘違いすんなって言っておいた。」
「は……?」
「ムギちゃんがあいつに優しくしてるのなんて、あいつがパン嫌いだからだろ? それなのに調子に乗りそうだったから、念のため釘をさしておいたんだ。」
衝撃の発言に、ムギの頭が回らなくなった。
ムギが優しく?
ローが勘違い?
そんな事実は、一切ないのに。