第4章 注文はパンとレッサーパンダを
前日の土曜日になって、ムギは先日の取り引きを後悔し始めていた。
フルーツサンドはまさしく究極の一品で、ムギを天国へと誘ってくれたけれど、アドレナリンが切れた今、ムギに残っているのは至福の思い出と合コンに対する不安だけ。
(あんな安請け合い、するんじゃなかったなぁ。)
フルーツサンドを胃の中に収めてしまった以上、今さら断れないとはわかっている。
ぼんやりと考え事をしながら、すでに売れ切れてしまったパンの籠を片付けた。
時刻は夕方で、土曜の夜はパンの売れ行きが滞るため、売り切れたパンの補充は減らしていくのだ。
「今日はもう、忙しくならないかな。ちょっと早いけど、上がっても大丈夫だよ。」
「あ、はい。」
厨房から出てきたサンジの顔をじっと見た。
サンジは女性が大好きだが、今は彼女がいない。
「え、なに? 俺の顔をそんなに見つめて。ハッ、まさかムギちゃん……、俺にラブ?」
「違います。」
両腕を広げかけたサンジの言葉を速攻で否定し、一歩下がって距離を取った。
サンジのことは尊敬しているが、異性としてどうこう思ってはいない。
「サンジさんって、合コンとか行ったことあります?」
「え、ないよ?」
「ないんですか!?」
女性が好きなサンジなら、当然合コンの経験もあるだろうと思ったのに、意外にも参加経験はないと言う。
「いや、行ってみたいんだけどさぁ、誘われねぇんだよな、これが。」
「ああ、なるほど。」
性格は置いておくにしても、サンジは黙っていれば顔が良い。
そして女性にとても優しいので、合コンに連れて行ったら両手に花どころか全員がサンジを狙うだろう。
そんな危険人物をわざわざ誘うほど、男たちも馬鹿ではない。
(黙っていれば、格好いいんだけどなぁ。)
どちらかといえばムギは、甘く愛の言葉を囁かれるよりも、男らしく背中で語る男性に好感を覚える。
それで言ったら、ゼフとか最高だ。
時に厳しく、時に優しく、そしてなによりパンが美味しい。
ああ、結婚したい。