第4章 注文はパンとレッサーパンダを
朝から昼までの時間を費やして購入したフルーツサンドを、プリンはムギの方へ押しやった。
「あげるわ。」
「ええぇッ、本当に? えっと、おいくらでしたっけ?」
「お金はいらない。そのかわり日曜日の件、頼めるわよね?」
「にちようび……?」
目の前に置かれたフルーツサンドにすっかり心を奪われていたムギは、プリンの言う“日曜日”の話が頭からすっ飛んでいる。
「合コンの話よ、合コン! まったく、あんたの頭の中にはパンしかないわけ!?」
「はい」と頷きかけたところで、横からボニーに肘でつつかれた。
その視線が「やめとけ」と言っているようで、とりあえず本音は飲み込んでおく。
「とにかく、これは取引きよ。合コンに来てくれたら、フルーツサンドをあげる。約束どおり会費もいらないし、謝礼も出すわ。どう?」
フルーツサンドによって鈍った頭が、少しずつ思考を取り戻す。
合コンは嫌いだ。
昨日も言ったとおり、男女の出会いを求める場というのがどうにも苦手。
しかし、仕事として割り切ってみたら、この上なく美味しい話なのではないだろうか。
タダで飲み食いできて、お金を貰えて、極めつけに憧れのフルーツサンドが手に入る。
ムギの心は大地震が如く揺れていた。
そしてついに、プリンの一言で決断する。
「ちょっと顔を見せたら、すぐに帰っていいわよ。」
「行きます。」
ムギの心の天秤は、呆気なく傾いた。
例え、昨日ボニーに長々と熱弁をふるっていたとしても、手のひらを返したように意見を変えていたとしても、結局はフルーツサンドの誘惑に勝てない。
「そう! じゃあ、交渉成立ね!」
満面の笑みを浮かべたプリンと連絡先を交換したムギは、飢えた野獣も真っ青な勢いでフルーツサンドにかぶりつく。
「あーあ、どうなっても知らねぇぞ。うまい話には、裏があるんだからな。」
大食らいな親友の言葉は、残念ながら野獣と化しているムギの頭に響かなかった。