第4章 注文はパンとレッサーパンダを
プリンが鞄から取り出したのは、紙袋だった。
スクールバッグに収まる程度の紙袋。
だが、その紙袋を見た途端、ムギの目の色は明らかに変わった。
「そ、それは……、まさか……?」
「ふ……、察しがいいわね。そのまさかよ!」
紙袋から出されたものは、レトロな花柄の青い箱。
それはまさしく、ムギが一度は食べてみたいと憧れていたもの。
「万疋屋のフルーツサンド!!」
都内有数の高級ショッピング街に店舗を構える万疋屋。
本業はフルーツパーラーであるその店は、数量限定でフルーツサンドを販売している。
旬のフルーツをふんだんに使用し、北海道産の最高級生クリームは胃もたれ知らずの軽やかさ。
そしてなにより、こだわりのパンがふわふわなのだ。
贅沢すぎるフルーツサンドの感想は、すべて噂で耳にしたもの。
高価で目を回すほどの行列を作る万疋屋には手が出せず、ムギも足を運べていない。
一介の女子高生には、ちょっと敷居が高すぎる。
「プリン先輩、それをどこで……!?」
「もちろん、万疋屋で買ったのよ。午前中の授業をサボってね!」
「……ダメだろ、それ。」
黙って聞いていたはずのボニーがついつい口を挟んだが、もはやムギの耳には届かない。
ムギの関心はすべて、プリンが持つフルーツサンドにのみ集中している。
「……欲しい?」
「欲しいです!! え、いくらですか? 交通費人件費もろもろ含めてお支払いしますけど。何個入りでしたっけ? ああ、いや、もちろん全部とは言いませんよ? さすがにわたしもそこまで厚かましくないっていうか……。でも半分……いえ、ひとつでいいんで分けてくれませんか?」
「ちょ、待って……。想像以上にぐいぐい来るわね。」
ムギの食いつき具合に引きつつも、プリンは作戦どおりに狙った獲物を釣り上げた。