第4章 注文はパンとレッサーパンダを
ムギには説明をしていないけれど、プリンにはどうしても彼女を合コンに連れて行かなければならない理由がある。
日曜日に迫った合コンは、プリンがかねてから目をつけていた有名進学校が相手で、しかもあの、決して女に靡かないと噂の彼も参加するらしい。
けれども、美味しい話はそう簡単に転がっているものではなく、合コンを開くにはある条件がついた。
『米田ムギちゃんっていう子を連れてきてほしい。レッサーパンダに似てる子らしいんだけど、わかるかな?』
少なくとも、プリンの学年に米田ムギなんて名前の子はいない。
それに、レッサーパンダ似ってどういう意味だ。
どうしても合コンを開きたいプリンは、死に物狂いで米田ムギを探した。
もし先輩の三年生だとしたら、分が悪い。
合コン相手を聞いた途端、敵になる可能性が高いから。
でも、一年生ならプリンに分がある。
例え彼女が合コンに乗り気でも、先輩命令でどうにでもできるはずだ。
そして、神様はプリンに味方をし、探し当てた米田ムギは一年生の教室にいた。
ただ、ひとつ想定外だったのは、ムギが合コンにまったく興味がなかったこと。
そもそも、なぜ彼らはムギの参加を条件にしたのだろう。
条件にするくらいだから、てっきりモデル並みに綺麗で可愛い子かと思っていたのに、実際の彼女はいたって平凡な容姿をしていた。
柔らかそうな髪に、くりっと丸い瞳は言われてみればタヌキ顔で、レッサーパンダに見えなくもない。
どちらにしても、これならばライバルになり得ないとたかをくくったプリンは、高圧的にムギを誘った。
ものの数秒で断られてしまったけれど。
相手側にそれとなく「他の子じゃダメ?」と尋ねてみるも、返ってきたメールには「その子じゃないとダメなんだってー」と絶望的な返事。
こんなチャンス、二度とない。
だからプリンは、なにがなんでもムギを連れて行くために、彼女の好みを調べまくったのだ。
そして掴んだ貴重な情報。
米田ムギは、パンとお金を愛している。