第4章 注文はパンとレッサーパンダを
「珍しいな、ムギがそこまで言うの。」
「そう?」
話は脱線したが、ボニーはムギが言いたいことをなんとなく察した。
今ムギが挙げた男子たちは、要は女子にモテたい男どもである。
プリンに誘われた合コンとは、まさしくそういう人間が集まる場で、どれだけ素敵な異性が来ようとも、ムギにとっては魅力的な場ではないのだ。
「……別に、彼氏や彼女を作りたい人を馬鹿にしてるわけじゃないんだよ。」
「わかってるよ、お前はそういうやつじゃない。それに、ムギの気持ちもちょっとわかる。ああいうとこって、互いに猫被ってる感じで私も好きにはなれねぇし。」
「ボニー、行ったことあるの?」
「前に一回だけ。男たちに、タダで好きなだけ食っていいって言われたから。」
「それは……、相手のグループに同情するな。」
ボニーの胃袋はブラックホールだ。
以前一緒に食べ放題店に行った時は、次から次へとなくなる料理を前に、店員がしくしく泣いていた。
「でも、これはもうしょうがねぇよなぁ。私らみたいな歳だと、外見ばっかり気にするもんだろ?」
「いや、そんなことないでしょ。勉強とか部活を頑張ってる子もいっぱいいるよ。」
「パンと金に命懸けてるやつもな。」
「はは……。」
誰のことを指しているのかがわかって、乾いた笑みを漏らした。
そうだ、普通なのだ。
誰だって異性の目を気にするし、恋だってする。
ただ……。
『お前のために変わったのに!』
忘れようと努めていた声が不意に蘇り、ムギは小麦色の髪をがしがし乱した。
「あー……、嫌なこと思い出した。」
低めの声で呻いたムギにボニーは目を丸くし、齧りかけのメロンパンを差し出してくる。
「大丈夫か? ほら、パン食え、パン。」
「……ありがと。」
食欲の塊なはずのボニーからメロンパンを一口貰い、目を瞑る。
甘い甘い小麦の味は、ムギの心から嫌な感情を押し流してくれる。
やっぱり、パンがないと生きていけない。