第4章 注文はパンとレッサーパンダを
「でもさ、ムギ。本当によかったのか?」
「え、なにが?」
「今の女の話。あの話しぶりだと、オイシイ誘いなんだろ?」
昼食を終えて一息ついていたら、ボニーが食後のデザート代わりの特大メロンパンを開けて尋ねてきた。
「どうだろうね。でも、合コンとか本当に無理。」
「なんで? 彼氏欲しくねぇの?」
「んー……。」
厳密に言えば、欲しくないわけではない。
友達の中には彼氏持ちの子もいて、幸せいっぱいの惚気話を聞いていると「いいなぁ」と思う心だって確かにある。
しかし……。
「ね、ボニー。ちょっとアレを見て。」
「あん?」
ムギが指さしたのは、教室の窓……正確には教室の窓から外に出て、隣の教室に移動しようとしている男子である。
ムギたちの教室は校舎の二階で、落ちても死にはしないだろうが、危険行為であるには違いない。
「アレ、どう思う?」
「どうって、隣のクラスに行きたいんじゃねぇの?」
「だったら普通に、廊下に出てから行けばいいと思わない?」
「えっと、窓から行った方が近いとか……。」
事実、廊下に出て隣のクラスに向かうより、窓から移動した方が距離は近い。
しかし、連中の行動にはきっと裏がある。
「甘いな。あれは、“危険な真似をして隣のクラスへ行くちょっと悪い俺!”をアピールしてるんだよ。」
「は? 誰に?」
「女の子にじゃない? 格好つけたいのはわかるけど、わたし、ああいうふうな人って苦手だな。」
ムギが指摘した行動は、思春期の男子によくある特徴だった。
女子がメイクやオシャレに目覚めるように、彼らもまた、ああして異性の気を惹こうとしている。
悪ぶりたいお年頃……とでも言えばいいのか、とにかくそういう時期なのである。