第4章 注文はパンとレッサーパンダを
高圧的な態度でふんぞり返った先輩は、第一印象ほど悪い人間ではなさそうだ。
後輩にあるまじき口の利き方をしたボニーの指摘を受け、上から目線ではあったが謝罪をした。
「わ、悪かったわね! 別にあんたがどうのってわけじゃなくて、ただ、あの人が指名するから……ッ」
「あの人?」
「こっちの話よ! 確かにレッサーパンダに似てなくもないし。」
「……は?」
さっきから意味不明なことばかりを言っているが、この人、大丈夫だろうか。
「本題はここからよ。私は二年のシャーロット・プリン。今度の日曜日、私と一緒に合コンに来てちょうだい!」
「え、無理です。」
「ちょ、返事が早いわよ! 少しはこっちの話も聞きなさい!」
「やー、聞いても気が変わらない自信があるんで。時間の無駄かなぁ……と。」
時は金なりって言葉知ってます?と言いかけて、かろうじて口を噤む。
相手は一応、先輩なのだ。
「この私が選んだ合コンなのよ? めちゃくちゃ優良物件なんだから!」
「興味ないですねぇ。スーパーのタイムセールならドキドキするんですけど。」
「それは比べるもんじゃねぇだろ。」
ピザを食らいながら入れられたボニーのツッコミに「そうかな?」と首を傾げていたら、ついにプリンがキレた。
「いいわよ、もう! 後悔しても知らないんだからね! あんたなんかレッサーパンダじゃなくてタヌキよ、タヌキ!!」
壊れるんじゃないかと思うほど乱暴に扉を閉めた彼女は、烈火の如く怒って教室を出ていった。
「……最後の捨てゼリフさ、ちょっと意味わかんないね。レッサーパンダってなんなの? タヌキって悪口?」
「さぁ? でも私はタヌキの方が好きだけどな。」
「ああ、可愛いよね。ふくふくしてて。」
「美味いしな。」
「……昔話の鬼婆みたいなこと言うの、やめてくれる?」
だから美人なのに残念女子って呼ばれるんだよ……と思いつつ、ムギはフレンチトーストの残りを口の中へ放り込んだ。