第4章 注文はパンとレッサーパンダを
ここのところのムギは機嫌が良い。
なぜなら、来週はついに給料日。
待ちに待った給料日なのだ!
「……ふふ。」
「ムギ、なに笑ってんだよ。」
「あ、ごめん。嬉しすぎて笑いが……。」
給与明細を開ける瞬間を想像したら、頬がだらしなく緩んでしまう。
「ふふ、今月はいくら稼げたかなぁ。貯金の最高額が…超えるかも……ふふふ。」
「怖い怖い怖い。」
本気でドン引きするボニーを無視し、ムギは妄想に耽って気味が悪い笑みを浮かべながら、昼食のフレンチトーストを齧った。
お金のことを考えながらパンを食べる……最高だ。
そんなムギの幸せを突如として壊したのは、予想外の来客者だった。
「米田ムギって子、いる?」
「……?」
がらりと教室の扉を開けて入ってきたのは、チョコレート色の長い髪をツインテールに結った美少女だった。
ネクタイの色が赤だから、彼女は一学年上の二年生である。
スペード高校では学年別にネクタイの色が違っていて、一年生は緑、三年生は青だ。
ちなみに、この色は卒業まで変わらないため、ムギたちは三年間緑色のネクタイを使用する予定。
「わたしですけど?」
「え、あんた?」
気味悪い笑みを引っ込め、フレンチトーストを持ったまま返事をしたムギを見つけた彼女は、可愛らしい顔を盛大に歪めて凝視してきた。
「あんた? 本当に?」
「はあ。同姓同名がいないとも言いきれませんが、少なくとも一年生に米田ムギはわたししかいません。」
「なによ、もっと可愛い子かと……。」
勝手な想像を押しつけられても困る。
生まれ持った容姿は変えられないのだから。
「おい、いきなり来てなんだてめぇ。ムギは可愛いだろうが。ちんちくりんだけど愛嬌があるんだぞ。目が丸くて可愛いだろ、ちんちくりんだけど。」
「ねえ、なんでちんちくりんって二回言ったの?」
言っておくが、ムギの身長は平均的だ。
ただ、美人と呼ばれるボニーの方が逸脱して身長が高いだけ。
そして、例外なく訪ねてきた先輩も大きかった。
そりゃあもう、背も胸も。