第1章 とにかくパンが好き
人間には、分相応というものがある。
そういう点で言えば、ムギはよく自分の“相応”を理解していた。
身長は高くもなく低くもなく平均的で、かろうじて二重の目もモデルほどぱっちりしているわけでもなく、鼻も高くなければ、胸だって大きくもない。
頑張って己の容姿を褒めるなら、まん丸な瞳がくりくりしていて可愛いと言ってもらえることもあるけれど、他に特徴がなく、容姿としても中の中。
つまりは普通。
普通な女子だからといって、夢を見たり高望みをするなとは言わない。
ただムギは、自分が見目麗しい男子を射止められるとは思わないし、噂話にキャッキャ花咲かせる意義を見いだせないだけ。
今日も今日とて、退屈な授業を半寝の状態で聞き流したムギは、昼休みに嬉々としてお弁当を広げた。
ゴマ入りバンズの照り焼きチキンバーガーを広げた時、ばたばたと荒い足音を立ててクラスメイトの女子が向かいの席に勝手に座った。
「おー、今日も美味そうだな。ひとつくれよ。」
「ボニー……。自分のお弁当は?」
「もう食っちまったよ。今日のハンバーガー、中身なに?」
「照り焼きチキン。食べるなら、ひとつ200円ね。」
男っぽい口調のジュエリー・ボニーは、クラスでも有名な大食い女子である。
黙っていれば綺麗なだけに、一部の男子からは残念女子とも呼ばれていた。
「なんだよ、金取んのか? ケチだなぁ……。」
「いやいや、お金も払わずに食べ物取るなんて、カツアゲと同じでしょ。それに200円は格安じゃない? ……って、もう食べてるし。」
大きな口を開けたボニーは、ハンバーガーをたった三口で食べきった。
ポケットへ雑に入れた小銭から、100円玉硬貨を二枚出すと、ムギが持っている分に熱い視線を注いでくる。
「これはダメ。わたしの食べる分がなくなる。」
「わかってるよ。私だって、ダチのメシを奪うようなマネはしねぇ。」
いや、今取ったじゃん……と思いながら、ムギは急く思いでハンバーガーに口をつけた。
ちょっとハードなバンズに練り込んだ黒ゴマの風味が香ばしい。
パンを食べるとほんわか温かな気持ちになって、自然と笑みが浮かんだ。