第3章 ご一緒にパンはいかがですか?
「え、え? 誰? キャプテンが受け取るなんて珍しい!」
「成り行きだ、詮索するなと言っただろう。」
「成り行きだとしても、キャプテンが受け取るの珍しいよね。ねえ、なにもらったの?」
「……ラスクだ。」
昔からローはベポに甘い。
シャチやペンギンになら「うるせェ」と一蹴することも、ベポに尋ねられるとつい答えてしまう。
ローの回答を聞いた二人は、揃って「えー?」と不満げな声を漏らす。
「ラスクって、パンじゃねぇか。」
「その子、キャプテンの好みを知らないんだね。」
彼らは幼馴染みのため、ローのパン嫌いを世間の常識的感覚で捉えている。
ひとりの人間の好みが世間の常識になってたまるかと思うのだが、二人は唇を尖らせて文句を言った。
「ダメだな、その女。キャプテンの好みを把握してないなんて、連絡先を聞く権利すらねぇ。」
「そうだね。好きな人のことくらい、ちゃんと考えなくちゃ!」
事情を知らないとはいえ、他人にムギの悪口を言われると無性に腹が立ち、シャチが座ってい椅子の背を蹴った。
「いてッ! なにすんだよ、キャプテン。」
「別に。理由はねェよ。」
「えぇー……。あ、そうだ。その貰ったラスク、捨てるのもアレだし、俺が食うよ。」
善意で手を差し出したシャチを、ローは汚いものを見るような目つきで睨んだ。
「え、なに? 怖いんだけど……。」
「お前にやるもんなんか、なにひとつねェ。」
「えーッ、ひどい!」
大げさにショックを受けるシャチを追い払い、ローは鞄のファスナーをしっかりと閉めた。
せっかく貰ったラスクを他の誰かに分け与えてやるなど、微塵も考えていなかった。