第3章 ご一緒にパンはいかがですか?
モヤモヤした気持ちを抱えたまま教室に入ると、先に来ていたベポが寄ってきた。
「おはよう、キャプテン!」
「ああ。」
「……あれ? なんかキャプテン、美味しい匂いがするね。ほら、えーっと、ペペロンチーノみたいな!」
「……。」
ニンニクを使ったガーリックラスクは、やはり臭ったらしい。
ローは無言で鞄から歯磨きセットを取り出すと、わけも語らずにトイレへ向かった。
本日二度目の歯磨きを終えたところで教室に戻ると、トイレにいた間に登校してきたシャチもローの席に集まっていた。
「キャプテン、おはよ。」
「ああ。」
「どこ行ってたんだ?」
「便所だ。」
用を足すにしては、なぜ歯磨きセットを持っているのか疑問に思ったベポとシャチだが、家でし忘れたのかなと思う程度に留まった。
けれども、歯磨きセットを戻す際に開けた鞄から漂う匂いには、シャチも敏感に反応した。
この年頃の男子といえば、食欲と性欲でできていると言っても過言ではないのだ。
「あッ、なんか美味そうな匂いがする! なに持ってんの?」
「うるせェな、ただの菓子だ。」
「菓子? お菓子? キャプテンがお菓子持ってるなんて、どういう風の吹き回し!?」
なんでもないと言ったところでしつこく聞かれそうだったから答えたのに、それはそれで面倒くさい反応だった。
「はぁ、めんどくせェ。貰いもんだ、余計な詮索はするな。」
「貰いものって、まさか女子?」
「……。」
沈黙は正解の証拠。
適当にあしらおうと思っていたはずが、二人はきゃあきゃあ女子のように騒ぎ始めた。