第3章 ご一緒にパンはいかがですか?
学校からの帰り道、ローは商店街の入り口で足を止めた。
普段は商店街を通らずに家まで帰るが、なんとなくバラティエに寄ってみようという気になったのだ。
今まで朝にしか店に入ったことはないけれど、初日にそうであったように、ムギは下校後にもバラティエでバイトをしている。
一言くらいラスクのお礼を言いたかったし、意外にも美味しかったラスクを購入するのもいいだろう。
今のところローは、コーヒー以外にバラティエの売り上げに貢献してもいないのだから。
そう思いながら足を向けてみたものの、まだ時間が早かったのか、店内にムギの姿は見当たらなかった。
しかたがなくラスクだけを購入しようかと店内をうろついたら、厨房から出てきたサンジとぶつかりそうになった。
「おっと失礼……って、なんだお前か。」
「……あ?」
パン職人であるサンジとは、正真正銘これが初会話。
お前呼ばわりされる筋合いはないし、これでもローは客である。
「客相手に、ずいぶん舐めた口を利くじゃねェか。」
「生憎だが、俺は客を選ぶんでね。少しムギちゃんに優しくされてるからって、調子に乗るんじゃねぇぞ、クソガキ。」
「なんだと?」
お前に続いて、クソガキ。
店長の教育はどうなっているのだろうか。
ムギがいないバラティエは、あまりに居心地が悪すぎる。
「そもそも、パンが嫌いな野郎がなんでわざわざウチに来るんだ。もしムギちゃん狙いだったら承知しねぇからな。」
サンジのふざけた態度には青筋を浮かべるばかりだったが、彼は今、聞き逃せないことを言った。
「おい、俺がパンを嫌いだと誰から聞いた。」
すかさず問い詰めたら、サンジはさらに驚くべき事実を口にする。
「あ? ムギちゃんからに決まってんだろうが。」
「なに……?」
ずっとムギは、ローがパンを嫌いなことを知らないと思ったいた。
しかし彼女は、ずっと前からローのパン嫌いを知っていたのだった。