第8章 激動のパンフェスティバル
午前10時、軽井沢の地でパンフェスティバルが開催された。
舞浜にあるネズミ王国のように、入場と共に来場者がわっと走り出すわけではない。
だが、観光地のイベントだけあって、オープンと同時にやってくる客は決して少なくなかった。
「お待たせしました、ガーリックと小倉です!」
小銭と引き換えに熱々のパンを渡す。
バラティエでは豊富な種類のパンを販売しているけれど、今回の出店でゼフが選んだパンは、なんと食パン一択である。
多くのパン屋がそうであるように、食パンは店の顔である。
日本生まれの食パンは、日本人に一番馴染みがあるパン。
最近では高級食パンブームがあったりもしたが、バラティエの食パンは一斤230円と非常にお安い。
しかし、庶民の味方である食パンもフェスティバルにおいては花がなく、そのまま売っても目を引かないため、一工夫してから提供する。
再加熱&トッピングである。
四枚切りにした食パンをさらに半分にカットし、それをオーブンでトースト。
そこにホイップバター、ガーリックバター、小倉あんバター、ハニーバターの四種からトッピングを選んでもらう。
ちなみにこのバターはすべて手作りで、生クリームが混ざったバターがふわっふわのとろっとろで最強に美味しい。
ムギのお勧めはホイップバターとガーリックバターと小倉あんバターとハニーバターと……つまり全部だ。
焼成から一晩寝かした食パンはさらに甘みが強くなって、バターとの相性が抜群に良い。
もちろん、お持ち帰り用として生食パンも販売している。
そんな説明はさておき、今回のパンフェスでは調理提供の店があまりなかった。
現場で調理となると機材費は嵩むし、時間はかかるし、労力も増える。
大半の店舗が包装したパンを店頭販売するのみ。
そのせいなのか、はたまたバラティエのパンが美味しいとパン好きにはわかるのか、ムギたちの店には長蛇の列。
11月も下旬に差し掛かるというのに、ムギの額からは玉の汗が流れ落ちていた。